防衛的悲観主義者の場合、このようにネガティブなままでいた方がかえって良い成績を上げることができ、ポジティブになるとかえって成績が悪くなることが、心理学の実験によって証明されたのである。従ってここから言えるのは、誰もがポジティブな心構えを持つことで上手くいくわけではないということだ。

不安だから
成功する

「ポジティブになろう」「ポジティブ思考を身につけよう」といったメッセージを当然のように受け入れる風潮があるが、先ほどの実験結果からもわかるように、そこには落とし穴があるということに気づくべきだろう。

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 現に、ポジティブといえばポジティブだが、どうも思慮が足りなくて困る、あまりに楽観的すぎるんじゃないかと言いたくなるタイプが少なからずいる。その一方で、いつも人並み以上の成果を出しているのに、なぜか不安が強く、何をするにも神経質になりすぎ、心配になって質問や相談に来る人がいる。そういう人に対して、

「そんなにネガティブならないで」
「ちゃんと成果を出しているんだから、もっと自信を持って」
「あまり考えすぎないで気楽にいこう」

 などとポジティブ思考を吹き込んでしまうと、せっかく成果を出していたのに、その人のパフォーマンスが急に下がってしまうことになりかねない。これは、まさに防衛的悲観主義者の特徴であるとともに、「不安の効用」を示唆するものと言えるだろう。

 日頃から、何かにつけて上手くいくかどうかという不安を抱きがちな人は、不安が強いせいで「失敗するかもしれない」「失敗したらどうしよう」「失敗した時はどのようにカバーすればいいか」などと、失敗についてあらゆる想像をしながら万全の準備をしておこうとする。その用意周到さにより、成功確率が高まるのである。

 C君の頼もしさの理由もそこにあったのだ。となると、C君のような人物の場合、ポジティブ思考を吹き込むのは禁物だとわかるはずだ。

 ポジティブ思考がモチベーションを上げるのは確かだが、だからといって何が何でもポジティブがいいというような「ポジティブ信仰」に陥らずに、不安の持つ価値にも目を向けてほしいと思う。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。

(心理学博士、MP人間科学研究所代表 榎本博明)