「このレポートの信憑性はどの程度なのかね」
「80パーセント以上と申しておりました。今後の状況によっては、もっと上がるだろうとも」
そうか……と呟き、また考え込んだ。
「もし、ここに書かれている事態が起これば、リーマンショック、ギリシャ危機など比ではないだろう。世界恐慌の再来だ。いや実際に起こらなくても、この事実が公になれば、それが引き金になって同様のことが起こるかもしれない」
「至急、我が国への影響を調べさせております」
大統領の呟きにも似た言葉にロバート・マッカラムが答えた。
この男は三十代に入ったばかりだが、大統領がもっとも信頼する側近の一人だった。
「110兆円の損失か。さらに長期にわたる政治と経済の低迷。アジア経済は直接その影響を受け、ドルの急騰につながる。いや、世界の通貨の急騰だ。株価の急落は避けられない。いずれ米国債の売却を始めるだろう。今回ばかりはそれを阻止することはできない。どうなるのか予測さえつかない」
「このレポートでは、そろそろヘッジファンドが動きそうです。そうなると来年半ばごろには我が国にも影響が出るでしょう。来年は――」
「中間選挙の年だ。影響を受けるのは必至だな」
大統領がロバートの言葉をさえぎった。そうなれば、再選の望みは絶たれる。ただでさえ再選は難しいと言われているのだ。これ以上、マイナス要素は増やしたくない。
もう一度、冬の庭に目を移した。巨大なクリスマスツリーが点灯時間を待っている。クリスマス休暇は余計な心配なく家族で迎えたい。
「直接、日本と話し合う必要があるな」
大統領は低い声で言って、視線をロバートに向けた。