福島原発事故から1年。「収束宣言」「安全宣言」が出されたものの、いまだ収束したとはいいがたい状況にある。その間、政府はいったい何をしていたのか――。『厚労省が国民を危険にさらす』を上梓したキャリア医系技官の木村盛世氏に、政府・厚労省の危機管理の実態を聞いた。
原発事故に対して
たかをくくっていた日本政府
福島原発の事故から1年が過ぎようとしています。その頻度は少なくなったとはいえ、いまだにメディアでは放射能汚染についての話題が尽きません。私のところにも一般の方からメールが届きます。
2011年3月、震災と同時に起こった原発事故以降、政府は、原発の放射線漏れはメルトダウンのような重篤な状況にはなく、「健康にはただちに影響がない」という常套句を繰り返していました。
これは本当なのでしょうか。
実際は、1号基が炉心溶融を起こしていたことを5月に認めています。このことからしても、「ただちに影響を与えるものではない」という政府の意見をそのまま鵜呑みにできないのではないか、と思う方も多いと思います。
いったい、発表されていることが本当であれば、なぜ人々はこんなにも不安になるのでしょうか。
それは、政府が「事実」を発表していないからです。もっと正確にいえば、事故が起こったとき、政府がパニックを起こして、事故の重大性を十分に把握しきれなかった、ということになるでしょう。
パニックを起こすと、理性的な判断ができなくなります。今回の事故は、日本だけでなく世界に大きな衝撃を与えました。それゆえ、社会のヒエラルキーの頂点である政府がパニックを起こせば、日本に住んでいる人のみならず、海外も不安になります。
今回の事故のように、予期せぬ重大な事象が起こったとき、いかに迅速に情報を集め、対応を決めるか、というのが最も重要なことです。ところが、それができなかったのが、今回の日本政府です。
わが国には、伝統的に(?)「臭いものには蓋をする」「寝た子を起すな」という文化があります。こうした考えは、今回のように国家の危機に際しては最も邪魔になる概念です。実際、今回の福島原発事故においても「市場に出回っている食品は食べても安全」という発表の直後、基準値を超える放射性物質が検出されるということが起きました。