それでは、なぜ「放射線は安全」という台詞が出てくるのでしょうか。

 いわゆる、放射線医学の専門家は「生物学的には圧倒的に少量浴びるほうが障害が出ません。これはもう明確に疫学的に証明されていますし、動物実験でも、私が話した細胞のレベルでもわかっています」(山下俊一氏、3月21日「放射線と私たちの健康との関係」講演会より)ということからわかるように、「少ない放射線は、健康に影響を与えない」と発言しています。

 この考え方は「しきい値モデル」という仮説が基になっています。これは、ある一定程度の線量を浴びなければ、がんは生じない、という考えです。

 一方で、「どんな低レベルの放射線も、人体に悪影響を与える」という、LNT(低線量しきい値なし直線モデル)という考え方もあります。この考え方に基づけば、専門家たちの「浴びても安全」という発言は、正しくないことになります。

 また、「しきい値なしモデル」あるいは「しきい値モデル」のほかにも、放射線の影響に対する考えがあります。それは「ホルミシス説」というものです。

 どんなものかというと、「放射線は浴びたほうが体によい」という考え方です。「ラドン温泉」がホルミシス説の代表格といえるでしょう。

 このように、ここに書いただけでも、放射線の健康に対する影響は一つの考えにとどまるものではありません。ですから、世論に影響を持っている人たちは、それを明らかにしたのちに発言をする必要があると思います。そうでないと、彼らの意見を聞いている人たちは、どの意見が正しくて、何を信じたらよいか、混乱する可能性があるからです。