国家の存亡に関わる最悪の事態を想定すれば、そこから「何をしなければならないか」「何が必要か」ということが、当然、議論として出てきます。当然のことながら、想定したシナリオへの対策を講じるには、やみくもにやればいいというものではありません。理にかなった方法論を考える必要があります。

 この際に必要なのが、過去の記述であり、データであるわけです。必要であれば、新しくデータを集めることも考えなければなりません。すなわち「科学的根拠」に基づいた「対応策」の決定です。

 ところが、わが国の危機管理対応は、この「科学的根拠」に基づいていないのです。

科学的根拠のない政策が行われると
どうなるか?

 科学的根拠に基づかない政策決定を行うと、どうなるでしょうか。

 現在の放射線対策からもわかるとおり、一貫性がないのです。「明日は明日の風が吹く」といった、その日任せの政策決定が行われるわけです。

 このような政府の決定にさらされた国民はたまったものではありません。なにしろ、風任せですから、一貫性を欠く政府の決定に対して、不安を覚えます。そして、それは、政策に対する不信感となって、政治不信を生むのです。

 科学的根拠の欠如の結果、何が起こるかといえば、思いつきの危機管理手段が用いられるということです。その代表が「水際封じ込め」「特攻隊作戦」です(代表というより、わが国にはこの2つしか手段がないのですが……)。

 水際封じ込め、すなわち「水際作戦」は軍事用語です。敵兵の侵入を防ぐため、海岸線に兵士を配置し、食い止めようとするやり方です。新型インフルエンザや口蹄疫の流行の際、この言葉が飛び交っていたことを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

 水際封じ込めは軍事的にあまり効果がないことは、歴史が証明しています。

 感染症対策でも同様です。とくにインフルエンザや口蹄疫ウイルスのように、伝播経路が多岐にわたり、有効な治療法が確立していない感染症については、効果がありません。