東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。京都大学名誉教授の著者が授業スタイルの語り口で、地学のエッセンスと生き延びるための知識を明快に伝える『大人のための地学の教室』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「迫りくる巨大地震から身を守るには? これは万人の必読の書、まさに知識は力なり。地学の知的興奮も同時に味わえる最高の一冊」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

富士山の噴火はそう遠くない?
――富士山の噴火って遠い遠いと思っていたけど、近いうちに起きると思わないといけないのですか?
そうです。富士山はいつ噴火してもおかしくない状態にある。
ただ、噴火する1か月ぐらい前には兆候があるので、地震のように突然起きるということはない。
富士山だけじゃありません。日本列島にはそういうスタンバイ中の火山が20ぐらいあります。
お住まいの近くに火山があったら、そちらも確認してみてください。
富士山はまだ若い火山
ちなみに富士山の勉強をすると、ほかのすべての火山がわかります。
プレート・テクトニクス、プルーム・テクトニクス、それから火砕流、そして気候が寒冷化するという地学までね。ぜひ富士山からスタートして勉強してみてください。
――富士山の構造は数十万年前にできた小御岳火山、古富士火山などの4階建てと言われています。ところが、富士山の年齢は10万年前からの小学生にあたると、どの本にも書いてあります。火山の年齢は過去の噴火とは関係なくなにかの基準で決められるのでしょうか?
これもいい質問で、個別の話と全体の話があるんですね。個別として富士山は古富士火山が10万年前にできて、1万年前に新富士火山に成長したということで、火山の寿命である100万年のうちの10分の1でしょう。
人生100年時代に10歳だから小学生ぐらいということです。繰り返しますが、これは個別の話です。
それで火山の寿命が100万年というのは地球上にある火山を全部見て、マグマだまりが完全に冷える時間があるし、マグマだまりは移動するし、カルデラをつくるような大きな噴火をすると早く消耗するし、ということを総合的に見て推定されたものなのです。
大きな噴火をしても下からたくさん供給されれば長持ちする場合もあるけれど、そうはいっても100万年を超える火山は少ないわけです。
個々の火山の話と、何千もある地球の火山の全体を見た場合の数字は出し方が違うんですね。
東日本大震災と噴火の関係
えてして「うちの近所の桜島は……」ということで個々の火山だけを見がちですが、たとえば桜島でも大昔からわかっているわけではなくて、せいぜい100年ぐらいしか観測の歴史がないのです。
よって、未来の予測は、世界中のいろんな火山で、火山学として蓄積された事実をもとに予測するということです。
富士山、伊豆大島、有珠山 富士山は東日本大震災があっても幸い噴火しなかった。
マグマだまりの上にひびが入ったけれど、それでも噴火していない。つまり噴火の引き金となる要素が二つあるんです。
それは、マグマだまりが巨大地震などで大きく揺すられることと、マグマだまりの圧力が抜けてマグマのなかの水が水蒸気になることです。
一つ目は、東日本大震災で富士山のマグマだまりが大きく揺すられた。それからもう一つは、マグマだまりの上部にある岩盤が割れる地震が起きた。
いずれも大変な事件ですが、マグマだまりの圧力が抜けて水が水蒸気になる、ということは幸い起きていない。
特に注意が必要な三つの活火山
二つの要因があっても噴火してないから、いまのところかろうじてセーフです。
だけど、次の南海トラフ巨大地震ではそうはいかないだろうと思っています。というのは次回は富士山に近い東海地震も連動するから。
あとは富士山以外でいうなら、伊豆大島は完全に噴火のスタンバイ状態ですね。それと先ほど述べた北海道の有珠山です。
いずれも次回の噴火はもう近いかもしれません。特に注意が必要なのは、この三つの活火山でしょう。
阿蘇山はずっと噴火していますが、今度は違うストーリーで、大分-熊本構造線が動き出しました。2016年4月の熊本地震(震度7)で一部の活断層が活発化して、そのあとに阿蘇山が噴火しました。
これはたぶん100万年単位で起きている現象の一部で、地震と火山が連動しているから引き続き注意が必要です。
参考資料:【京大名誉教授が教える、富士山が噴火する日】大量の溶岩で新幹線や東名高速は分断、火山灰で首都圏のライフラインが止まり、被害総額は2兆5000億円、3000万人が被災する…
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』を抜粋、編集したものです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。