2000年前後からビリオネアの宇宙投資が始まったが、宇宙ビジネスを手がけるベンチャーには、IT産業から来たプレーヤー、IT関連の資金が投入されているケースが少なくない。グーグルがスペースXに1000億円を超える投資をするのはなぜか? グーグルが500億円出しても欲しかった「データ」とは? 清水建設宇宙開発室、JAXA出身の宇宙ビジネスコンサルタント・大貫美鈴氏の新刊『宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ』から、内容の一部を特別公開する。

グーグルが500億円出しても欲しかったビジネスが激変する「データ」とは?

ビリオネアたちが気づいた宇宙の巨大な投資価値
デニス・チトーの「宇宙旅行」がターニングポイントに

 ビリオネアの宇宙投資が始まったのは2000年前後からですが、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙旅行はそのきっかけのひとつであったように思います。

 1998年から組み立てが始まった国際宇宙ステーションには、2000年11月から宇宙飛行士が常駐するようになりましたが、そのわずか半年後の2001年4月にデニス・チトーによる宇宙旅行が実現しました。約20億円の自費で、国際宇宙ステーションに1週間、滞在したのです。往還はロシアの「ソユーズ」です。

 デニス・チトーは、アメリカ人の実業家です。アメリカの宇宙旅行代理店スペース・アドベンチャーズに1998年に申し込みをしました。最初はロシアの宇宙ステーション「ミール」に滞在する宇宙旅行になるはずでしたが、ミールの老朽化のため、行先が国際宇宙ステーションに変わったのです。

 この宇宙旅行は、国際宇宙ステーション初の商業利用となりました。これをきっかけに、宇宙旅行は自己投資のひとつの形であること、宇宙は投資の対象であることに宇宙に関心の高いビリオネアが気づくことになりました。

 その意味で、デニス・チトーの宇宙旅行はひとつの大きなターニングポイントになりました。その後、ビリオネアの宇宙ビジネスへの投資や起業が活発化していくことになり、現在では、フォーチュン誌のリストに掲載されている20人以上が宇宙に投資しています。

 ロシアはソ連時代の1961年、世界で初めて有人宇宙飛行に成功した国です。以来、積極的に宇宙開発を推し進め、アメリカとともに世界の先頭を走ってきました。宇宙産業で働く人は約30万人とも言われています。

 宇宙への投資を始めたビリオネアには、IT産業で資産を築いている人が少なくありません。彼らには何より先見の明があります。ITの次は「宇宙」がビジネスの場、宇宙を利用することで新たな価値を生むと見たのかもしれません。

 世の中のデジタル化、IT革命が進んでいく中、とりわけITの世界で、宇宙を使えばできること、宇宙でしかできないことがあることに、多くのビリオネアたちや起業家たちが気づいていくのです。