本書では無数の惑星の見どころを紹介していってくれるのだが、中でも僕がこれはいいなと思ったのは水星だ。水星はとてもゆっくり自転しているので、日の出の太陽に追いつかれずに歩くことができる。水星の明暗境界線は時速3.5キロなので、日の当たる面と暗闇とのドラマチックな境界線を歩き続けることができる──ただし、もし一瞬でも歩くのが遅れて直射日光を浴びてしまったら、宇宙服を着る普通の人間は炭の塊となって死んでしまうだろう(かなしい)。

そもそも行くのが大変な惑星たち

 本書の描写は一貫して科学的/化学的なのが魅力的なのだけれども「アクセスの仕方」もちゃんと説明してくれているのがいい。たとえば火星にいくのなら一番いいのは、太陽から最も遠い点が火星、最も近い点が地球となる楕円を描くホーマン遷移軌道のときだ。この状態になるのは火星の約1年に1度で──と、このへんの話は映画『オデッセイ』を観た人にはおなじみだろう。

 だが火星ならマシだ。片道一年もないのだから。他の惑星──たとえば天王星までは29億キロあるので、最適なタイミングであっても10年近くかかってしまう。その場合、もう観光旅行ではなくなってしまうだろう(戻ってくる頃には学生だったら卒業か退学、社会人もクビだ)。もっとヤバイのは海王星で、地球から43億キロも離れているうえに、太陽のまわりを時速1万9000キロで回っているため(地球は10万7000キロ)速度を合わせるためだけでも莫大な燃料を必要とする。

 行く時には木星や他の惑星からの重力アシストがほぼ必須だが、2020年から2070年のあいだにはそうした惑星からの後押しを受けられるチャンスは20回しかない。往復するだけでも20年以上かかるので、やはり仕事や学校を辞める覚悟がいるだろう。

おわりに

 もちろん我々はまだこれらの惑星にはいけないわけだけれども──本書を読んでいつか、きっとくるその時に思いをはせるのも悪くない。フルカラーで各惑星の写真や図やイラストがたくさん入っているのも読みどころで、非常に満足度の高い一冊だ。

(HONZ  冬木糸一)