【黒田東彦×渡辺博史】元財務官2人が展望する26年の世界経済の見通しとリスクは?日本株、日中関係、AI…Photo Masato Kato

ダイヤモンド・オンラインの連載『黒田東彦の世界と経済の読み解き方』では、いずれも財務官を務めた前日本銀行総裁の黒田東彦氏と前国際通貨研究所理事長の渡辺博史氏の対談の詳報を複数回にわたってお届けする。対談詳報の3回目は、2026年の世界経済・日本経済の見通しやリスク、日本株や日中関係の行方などについて、2人の注目ポイントを聞いた。(聞き手/ ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)

26年の世界経済は3%成長がギリギリ
米中の指導者の地位の揺らぎが大きく影響

――2026年の世界経済の注目ポイントやリスクはなんでしょうか?

黒田東彦 世界経済の見通しですが、まず世界最大の経済大国である米国について、トランプ関税の影響でインフレが進み、消費が落ち込むというシナリオをどう見るかですね。国際通貨基金(IMF)が25年10月に出した「世界経済見通し」で、米国の成長率は、24年が2.8%でちょっと出来過ぎくらいの結果だったのですが、25年は2.0%、26年は2.1%と、それよりも落ちるという予測になっています。過去25年くらい米国経済は絶好調で、コロナショックなどを除けば2%台半ばの成長をずっと続けてきた。それが25、26年と落ちるのはひとえにトランプ関税のせいです。

 次に世界第2位の経済大国の中国ですが、2000年代までは年10%近い成長をしていましたが、10年代に減速し、20年代は年4~5%成長になってしまった。今後は3%台、さらに30年代には2%台にまで落ちるという見方もあります。加えて、21年の住宅バブル崩壊で消費が落ち込み、消費者物価指数は下落傾向で、中国は今デフレなのです。従って、世界第2位の経済大国も、減速状態が続いていることになります。

 そして世界第3位の経済大国、これは本来日本なのですが、今為替が円安もあってドイツに抜かれています。為替水準が戻れば3位になると思います。そして、日本経済の見通しについて、IMFは25年が1.1%で26%は0.6%に減速すると予想していますが、主たる影響はトランプ関税なんですよね。

 以上を総合すると、26年は世界経済全体でもかつてのような3.5%台成長はちょっと困難になってきており、3%ギリギリか、場合によっては3%を割るかもしれないという展開でしょうね。ただ、かつてのリーマンショック やアジア通貨危機のような、成長率が一気にマイナスに振れる展開も考えづらいという状態ですね。

渡辺博史 今の世界経済は、基本的にはドナルド・トランプ氏の動向に左右されます。この状態はある意味で政治の影響が大きく、例えば26年11月の米中間選挙で米議会が青くなった(民主党が多数派を占めた)ときに、残り2年間でトランプ氏がどうするのか。おとなしくなるのか、それとも逆に大きく動くのかという問題へとつながります。

 実は中国も似たような状況で、習近平国家主席の最近の動きは、足元がぐらついているがために強く出ているという要素もあるでしょう。中国経済の4%成長という数字は、相当げたを履いた値だと私は考えています。中国共産党は、国民の生活を豊かにするという大目標があるからこそ今のポジションを取っているわけです。しかし、目標が達成困難になるなどして立場が揺らいだりすると、さまざまな意味でリーダーの行動に跳ね返ってくることを考えなければならない時代ですね。