「スペースX」「テスラ・モーターズ」「ソーラーシティ」「ニューラリンク」……ジョブズ、ザッカーバーグ、ベゾスを超えた「世界を変える起業家」の正体とは? イーロン・マスクの「破壊的実行力」をつくる14のルールを徹底解説した新刊『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(竹内一正著)。この連載ではそのエッセンスや、最新のイーロン・トピックを解説していきます。

史上最大級ロケット「ファルコン・ヘビー」打上げに成功

イーロン・マスク率いる宇宙ロケットベンチャー「スペースX」は史上最大級のロケット「ファルコン・ヘビー」の打ち上げに成功した

日本時間2月7日の午前5時45分に米フロリダ州のケネディ宇宙センターから打上げられた全長70mの2段式ロケット「ファルコン・ヘビー」は順調に飛行し、2基のサイド・ブースターを切り離すと、その後も高度をグングン上げて、センターコアの先端に格納していた真っ赤なスポーツカーを予定軌道に投入することに成功した。さらに、2基のサイド・ブースターは地球に戻り発射場に無事着陸を果たした。

「ファルコン・ヘビー」打上げの様子はスペースX社のサイトから見ることができる
http://www.spacex.com/webcast

強気で有名なイーロン・マスクだが、今回のファルコン・ヘビー打上げに関しては「ロケットが軌道投入に失敗する可能性は十分ある」と弱気の発言をしていた。だからこそ、打上げに一発で成功したことはこの上ない喜びだろう。これまでファルコン9で何度も成功させてきた1段目ロケットの着陸ノウハウが大いに生きたと思われる。
なお、今回利用した発射場はアポロ11号を打上げた場所で、記念すべき快挙にふさわしいと言えよう。

ファルコン・ヘビーは、昨年18回の打上げに成功したファルコン9を3基並べたような構造になっていて、スペースXが独自開発したマーリン・エンジンを27基搭載し、地球低軌道への打上げ能力は約64トンを誇る。スペースXによると、この値は現在最大の打ち上げ能力を有するデルタIVロケットの2倍以上だ。

今回の打ち上げはテスト飛行で、積み込んでいた真っ赤なスポーツカーは、イーロンのもうひとつの会社テスラ社の電気自動車「ロードスター」で、地球と火星から同じ距離離れた地点で太陽を半永久的に周回する軌道に乗り、まるで今後のスペースXの火星挑戦を見守る役目のようだ。

イーロンの今後の狙いは「火星」

スペースXは年内にファルコン・ヘビーで2人が乗った宇宙船を月軌道に送る計画をはじめ、ファルコン・ヘビーを火星有人飛行計画の重要なマイルストーンと位置付けている。火星への打上げ能力は約17トンもある。

では、その先にあるのは?
全長100mのビッグ・ファルコン・ロケット(BFR)だ。BFRは2024年に人を乗せて火星を目指して打上げる計画で、スペースXのエンジニアたちは奮闘している。

しかし、スペースXの未来が簡単に開けると考えるのは楽観的過ぎるだろう。
これまでスペースXは数々の失敗に直面してきた。最初のロケット「ファルコン1」は打ち上げに3度失敗した。
ファルコン1の9倍の推進力を持つ大型ロケット「ファルコン9」は、2016年に打上げ台で発射テスト中に爆発事故を起こし、発射台も損傷被害を受けた。

アポロをはじめ、これまで使い捨てだったロケットではなく、1段目ロケットを着陸させ再利用するというイーロンの異端の発想に基づき、ロケット着陸を2015年からスペースXは試みたものの、実は成功させるまでに6度も失敗を繰り返したのだった。

宇宙ロケットのコストを徹底的に削減

だが、数々の失敗を乗り越えてスペースXは成功にたどり着いた。それもNASAの物真似をするのではなく、独自の設計で誰もが驚くような技術革新を行い、ロケットコストを1/10に削減し、ロケット再利用を行うことで最終的には1/100のコスト実現を目指している

イーロンたちスペースXの目標は、「人類を火星に移住させること」だ。それも一人、二人の宇宙飛行士を火星に立たせるのではなく、百万人を火星に送り込むというから驚かされる。そのためには、破格にコストが安い大型ロケットが必要であると考えスペースXは挑戦を続けている。

ファルコン・ヘビーの打上げ成功は快挙に違いないが、イーロン・マスクの壮大な夢はまだはじまったばかりだ。その一方で、火星までの半年間も飛行士が宇宙船内で暮らせるのか。宇宙放射線の影響は……。出来ない理由を挙げたがる人は世間に多くいる。

しかし、思い起こせば、スペースXがロケットを打上げると言った時、専門家たちは皆、「ベンチャー企業には無理だ」と批判し、ファルコン1で使ったマーリン・エンジンを9基も束ねて大きな推進量を出す常識破りの設計には「うまくいくはずがない」とこき下ろした。何より「1段目ロケットを地上に戻して着陸させ、再利用するなど不可能だ」とバッシングもあった。

だが、イーロンとスペースXは類いまれな努力と執念でそれらを実現してきた。
私たちは幸せである。なぜなら、この男の無謀にして歴史的な挑戦に立ち会うことができるからだ。スペースXの戦いはまだまだ続く。