声がか細い、かすれる、通りづらい…といった悩みは多いようです。では、「いい声」とはどんな声でしょうか。メディアトレーナー、ボーカルディレクターとして、芸能界のトップアーティストを指導する「表現」のプロである中西健太郎さんの新刊『姿勢も話し方もよくなる声のつくりかた』より今回は、「いい声」といえる基準と、「いい声」を出す基本である「姿勢のとりかた」についてお伝えします。ポイントは「いい姿勢をとろうとしない」こと?だそうです。
みなさんは、どんな声が「いい声」だと思いますか? アーティストのボーカルディレクターを務める僕にとってのひとつの目安は、その人の気持ちよさが相手にも伝わってくる、よく響く声だ、と思います。
では、相手が聞いていて「気持ちいい」と思ってくれる声は、いったいどうすれば出せるのでしょうか。そのための具体的なポイントを解説していきます。
実は、いい声を出すためには、発声や発音といった「声の出し方」以上に大切なことがあるのです。
それは、「姿勢」と「呼吸」です。
え! 声をよくしたいのに、姿勢と呼吸なんて関係あるの……?そんな遠回りをしたくないのに……と戸惑う方もいるかもしれません。
でも、これが密接に関係しているのです。
むしろ、声がよくなる近道といってもいいでしょう。
詳しくお話しすれば、きっと納得してもらえると思いますので、それぞれ解説していきましょう。
まずは、なんといっても大事な「姿勢」からです。
背筋がピンと伸びたいい姿勢の人というのは、声を聞く前から、しっかりしていて信頼できそうな人だろうな、という好印象を与えます。話をする前から、すがすがしい気持ちにさせてくれますよね。
つまり、ただ立っているだけでも、信頼性が増すメリットがあります。
しかも、声をよく響かせるうえでも、いい姿勢を保つことが絶対条件なのです。
「姿勢をよくしなさい!」というのは、きっとみなさんが子どものころから親御さんや学校の先生に言われてきたことでしょう。それが大事なのはわかっている!と思う人も多いと思います。
でも、特に難しいのは、いい姿勢を「保つ」ことではないでしょうか。
一瞬であれば、いくらでもいい姿勢になれます。でも、そのまま長い時間を過ごすと疲れてきます。ふと気を抜いて、背筋が曲がってしまっている……ということがあるのではないでしょうか。
それは、「姿勢をよくしよう」として、腰をそらせすぎたり力を入れすぎたり、無理な体勢をとっている場合が多いからです。いい姿勢を保つには、その逆をいってください。
長い時間いい姿勢でいるためには、「姿勢よく!」と思うのをやめるのです。
代わりに、次の3つのポイントをいつも意識してみてください。
・足の親指を平行に並べ、地面にしっかりつける
・目線は高く保つ
・体を縦半分に分ける「正中(せいちゅう)線」を意識する
簡単ですよね。無理をして背筋を伸ばそうとするのでなく、この3つをやれば、自然と背中がピンとするのです。
この3つのポイントについても、それぞれコツがあるのでお話ししていきましょう。
足は腰幅に平行に並べて立ちます。肩幅でなく、腰幅です。
両足の親指は不自然なほど力を入れる必要はないのですが、地面からの力を受けられるように、しっかり地面に着けてください。柔道をはじめ格闘技では、親指が浮いた瞬間にストーンと崩されることがあります。それと同じように、いい姿勢を保つためにも、足の親指を地面から離さないことは鉄則です。無理に力を入れる必要はありません。親指がつま先まで地面についていることを意識してください。
親指がしっかり地面に着いたら、いったん軽く膝を曲げて、ゆっくり踏み込みながら立ちます。ゆっくり、ゆっくりです。「スカイツリー」のように、まっすぐ伸びていく。
このとき、ただ膝を伸ばそうとするのではなく、地面を押すことで自然と体全体が上がってくるよう意識してください。そうすると、膝を伸ばしたときに、お腹がきゅっとなって、下半身が安定し上半身が前傾しづらくなります。
ここまでできたら、多くの人はかなりいい姿勢になっています。
ただ、ちょっとだけ頭が前側に倒れたまま残りやすいことがあります。
だから、自分の頭の真上にフックがあると思って、そのフックに軽ーく頭が吊られている感じで持ち上げてあげてください。これを「スカイフック」といったりもします。天からのフックで頭が吊られている。自分で持ち上げると思うと力みますが、天のフックに持ち上げられて自然と頭が持ち上げられる感じです。
そうしたら水平線を見るような気持ちで遠くを見やる。あごを上げる、あるいは目線を上げると思う必要はありません。軽く頭を高くしてあげる。
最後に、いったん遠くを見てください。そして近くに視線を戻すと、自然にいい姿勢になります。
注意点として、この姿勢をとるときガニ股になると、肋骨と骨盤が開き気味になります。すると男性も女性も所作がきれいに見えませんから、ガニ股は厳禁です。
逆に、自分で骨盤を締めようなどと思うと、変なところに力が入ります。
ですから、両足の親指と親指を平行に並べて地面につけ、頭を少し上げてあげると、それだけできれいな姿勢になります。
そして最後に、先ほどお伝えした体の縦半分を通る「正中線」を意識してみましょう。空から地面まで体の真ん中をズドーンと串刺しにされる感じです。
自分のエネルギーが空高くから、地面の深くまでドーンと通じているようなイメージをもってみてください。座っているときも同じで、正中線を意識します。
よく柔道などの稽古で「正中を正しなさい」といわれます。正中が曲がっていると、不自然に見えたり清潔感がなくなったり、相手ときちんと向き合っていない、というメッセージを送ってしまうことになりかねないからです。このことは、普段の生活でもいえることだと思います。
いい姿勢を保つコツは、「正しい姿勢」をとろうとしないこと。
正しくと思いすぎると力んだ姿勢になり、見栄えもあまりよくありません。力めば、もちろん声にもよくありません。
「正しい姿勢」や「いい姿勢」ではなく、「自分が気持ちのいい姿勢」をとるぞ!と思ってください。それが自分にも相手にも気持ちのいい、美しい姿勢へとつながります。