マッキンゼーで14年間活躍し、現在「日本発の世界的ベンチャー」を生み出そうと活動をしている赤羽雄二氏は、「誰でも、確実に頭が良くなる方法がある」という。しかも、ペンとA4の裏紙を使うだけの、お金もほとんどかからない方法だ。

その詳細を記した『ゼロ秒思考』は、2013年の発売以来ロングセラーとなり、累計で17万部を超える大ヒットとなっている。

「明らかに日々の思考量や行動量が増えた」
「打てば響くような会話ができるようになった」
「嫉妬やパワハラに負けない精神力が身についた」
という声が多数届くだけでなく、現役のトップアスリートも実践してパフォーマンスの向上に効果を上げているという。

この記事は、『ゼロ秒思考』より、ポイントの解説にあたる部分を編集した後篇となる(前篇はこちら)。
※2013年12月24日付け記事の再配信です。

ゼロ秒思考と情報収集

 「ゼロ秒思考」といっても、情報が不足していればもちろん最小限の調査・情報収集が必要となる。そうでなければ考えるベース、枠組みがなく、当てずっぽうになる。問題や解決策に関してある程度の背景知識がなければ、自己流すぎる判断となり、場合によって大きく見誤ることになる。

 普段からアンテナを立てておくこと、感度を高く持っていろいろなことに関心を持っておくことが大切だが、それでも足りない場合は、さらに調べたり、詳しい人に聞いたりすることになる。

 慣れてくると、二つの点である程度の勘が働くようになる。

 一つは、適切な判断をするために必要な情報を自分が持っているかどうかに関してだ。右に行くべきか左に行くべきか、A案なのかB案なのかC案なのかの判断をするために必要な情報は何か、その情報を自分は持っているのか、その情報がどうであればどういう判断をすべきかが見えるようになってくる。必要な情報、知識が5種類あるとして、それらの間に相互連携があるのか、あるとすると、どういう相互連携ならOKでどういう相互連携ならOKではないか、ということも見えるようになってくる。

 二つめには、情報が足りない場合、どこからどうやって鍵となる情報を取ったらよいかに関しての勘である。問題意識を高く持つようにすると、今自分が何を知っているか、何を知らないのか、知らないことは必要に応じ、どこから取ればいいのか、誰に聞けばいいのか、今は情報収集しないとしても、必要に応じ、どう深掘りをすればいいか、だいたいの目星がつくようになる。

思考力を確実にアップさせる「メモ書き」の方法

 問題は、大半の人が調べすぎてしまうことにある。インターネットで検索したり、業界イベントに行ったり、本を読んだり、ああでもないこうでもないと結論のない議論をしたり、そのうえでまたネット上のディスカッショングループを過去ログまでくまなく読んだり、何週間も延々と調べる。それ自体はもちろんよいことだが、時間がかかるばかりで判断・決断を延ばしがちだ。

 先延ばしにすることで方針決定の精度が上がるならいいが、ほとんどの場合、上がらない。「こういう問題だから今すぐこうすべきかな」という仮説を立て、それを情報収集の結果で検証し、さらに仮説の精度を上げるようなことはあまりされないからだ。むしろ、情報収集にかまけるあまり判断が遅れて傷口が広がり、効果的な対策が打てなくなることのほうが多い。

 こういうことを言うと、「素早く意思決定をするうえで、どの程度情報収集をすればいいかわかりません。いつも迷ってしまいます。ちゃんと調べたのかと常に上司には突っ込まれますし。いったいどれだけ集めればいいのでしょうか。調べれば調べるほど不安になってしまいます」という質問が返ってくることがままある。

仮説構築のスピードと質を高める方法

 そういう時には、「今考えておられる課題・問題点の仮説に対して、取りうる解決案を三つあげてください。それらのメリット、デメリットを書きあげてだいたい目星をつけてから情報収集を始めると、アクション指向で素早く進めることができますよ」とお答えしている。

 あるいは、「情報収集しなくても、どうすべきか本当はある程度想像できていますよね」と聞くと、「そうですよね。なんとなくですが、ある程度は進むべき方向がわかっているように思います」と言われることのほうが多い。そういうチャレンジを受けないと、まず情報収集をしようとする。判断を先延ばししようとする。いやな判断を先延ばしにするために情報収集を延々と続けるのではないかと思われるほどだ。

 私が知っている限り、ある程度の経験を積んだ現場の方々は、何が問題でどうすべきなのか、おぼろげにでもイメージをお持ちだ。しかし、それを具体化する訓練を十分にはしていないので、どうしたらいいかわからない、まずは情報収集しないといけないと思いこんでいるだけか、上司の叱責や嫌みを恐れて意見を言わず、情報収集を継続するという安全策を採っているだけだ。特に大企業であればスタッフ組織が強く、突っ込みが各所から無数に入ってくるし、揚げ足取りも多いので、過剰に情報収集してしまうことになる。

 右に行くべきか左に行くべきか、それを素早く決めるために何を知らないといけないのか、普段からアンテナを立てていれば、実はそれほどむずかしいことではない。まともな人、つまり大多数の人にとってだいたいの勘は働くからだ。足を引っ張るのは、過去のトラウマ体験、上司の叱責、組織の階層の多さによる効率低下、官僚主義からくる形式重視やビジネスからの乖離などだ。