もちろん、今あるだけの情報で仮説を立て、方針を出すにはコツがいる。自分への追い込みも必要だ。「もっと情報がほしい、今のままだと不完全だ」と言いたい気持ちをこらえて、大胆に仮説を出す癖をつけることだ。それだけで、仮説構築のスピードと質は劇的に高まる。
むずかしそうだが、本当にやらなければならないことに素早く取り組むという達成感、進捗感から、ストレスはむしろ小さくなる。
先延ばしにしようとする気持ちは誰にでもあり誘惑も多いが、間違いなく前倒しのほうがずっとよい。早く対処できれば手遅れになる前に対処できる。早めに着手すれば改善もしやすい。情報収集を重視して結果として手遅れになるよりはよほどよいという気持ちが鍵だ。
注意すべきは、人によっては、スピード重視という名のもとに、調査不足でもまったく調べず、専門家に聞きもせず、アンテナも立てず、無防備に動いてしまうことがあることだ。「素早く情報収集をし、全体像を考え、代替案を立案し、比較検討し、決定後は強力に推進する」といった基本動作を無視して、限られた情報や自分の好み・過去の経験則によって決めつけたまま動こうとする。これは非常に危険だ。仮説はあくまでも仮説にすぎず、確認もしていない。程度問題ではあるものの、出した仮説の根幹だけはすぐ確認、検証しておく必要がある。
ゼロ秒思考をつくるメモの書き方
ゼロ秒思考を身につける最短、最良の方法は「メモ書き」だ。
「メモ書き」は、元々は私がマッキンゼーに入社した際、インタビューの仕方、分析のやり方、チームマネジメント等で役立つアドバイスを先輩から多数いただき、それを漏らさず書き留めよう、書き留めたうえでしっかり理解し自分の物としよう、というプロセスから生まれた。
ただ、数千ページ書き、多くの人にも書いてもらううちに、メモを書くと自意識を取り払い、素直にものを考えられるようになることに気づいた。1分という制約の中で、素早く迷わず、相当量を書き出すことが鍵だったと考えている。
「メモ書き」は、こわばった頭をほぐす格好の柔軟体操であり、頭を鍛える手軽な練習方法だ。頭に浮かぶ疑問、アイデアを即座に書き留めることで、頭がどんどん動くようになり、気持ちも整理されるようになる。自意識にとらわれ悩むことがなくなっていく。「メモ書き」により、誰でも、この境地にかなり早く到達できる。自分でも驚くほど頭の回転が速くなる。
具体的には、A4用紙を横置きにし、1件1ページで、1ページに4~6行、各行20~30字、1ページを1分以内、毎日10ページ書く。したがって、毎日10分だけメモを書く。たとえば図のメモのようになる(なお、ここではメモ上の実際の行数ではなく、ダッシュ「-」で始まる項目を「行」と表現する)。
こんな単純なものでいいのか、と思われるかもしれないが、簡単で気軽にできるところがポイントだ。
図のメモは、ある大手流通業で、部下1000名ほどの地域本部営業リーダーが書いたものだ。非常に優秀な方で受け答えも普段は素晴らしいが、部下に対してはすぐ怒鳴りつけてしまう。「怒鳴りつけることで部下は萎縮するし、いいことは何もない」と本人は私に話してくれるが、部下に対してはついやってしまう。それをなんとかしようと彼が書いたメモだ。