「そちらのレポートの情報が漏れたのか」

〈独自の研究成果らしい。というより、発表時期をうかがっていたというのが現状らしい。日本国債と日本の格付けを下げるという話だ〉

「そんなことは分かっている。慌てるほどのことじゃない」

 森嶋は動揺を悟られないように平静を装って言ったが、どこまで通じたか自信はない。いずれそうなることは分かってはいたが、現実となると、やはりショックだった。

「いつ発表するか知ってるのか」

〈そんなこと問題じゃない。問題は彼らが2段階一気に下げるつもりだということだ〉

 森嶋は次の言葉が見当たらなかった。これは政府も予測していないはずだ。

〈どうした。聞いてるのか〉

「根拠は何だ」

〈俺たちが言ってるのと同じだ。一向に減少しそうにない債務と、ふくらむ予算規模、先の見えないデフレと、少子高齢化問題、それに対してまったく有効な手段が取れないというお前たちの政府の信用問題だ〉

 森嶋はほっとした。高脇の地震情報はまだつかんでいないのだ。しかし、現状でこの状態ならば発表されるとどうなるのか。

「どこからの情報だ」

〈インターナショナル・リンクの幹部から直接聞いた。確かな情報だ〉

「なぜ、俺に知らせる。俺には荷が重すぎる」

〈友達だからさ。この極秘情報をお前がどう使うかは自由だ。ただし、俺の名前は出すな。情報源の秘匿とか理由を付けて逃げろ〉

「出所を言わなければ誰も信じない」

〈インターナショナル・リンクの幹部に知り合いがいるとか、なんとでも言えばいい〉

「アメリカ政府高官とでも言うさ」

 かすかな笑い声が聞こえた後、電話は切れた。

 携帯電話を切ってから再度布団にもぐり込んだが眠れそうにない。

 これが公表されると為替、株価を含め日本経済全体に大きく影響が及ぶのは当然の話だ。

 誰に話せばいいか分からなかった。一介の官僚の言葉など、誰が信じるというのだ。それも国交省の役人だ。考えれば考えるほど眠気は遠ざかっていく。