第1章

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 午後5時、部屋にいた全員が役所を出た。

 森嶋がマンションの前に来たとき、携帯電話が鳴り始めた。

 理沙だ。

〈ちょっとだけ話をしようよ。時間はとらせない〉

「今日は色々あって、疲れてるんです」

〈あなたが定時に役所を出て帰ってくるなんて珍しいでしょ。何かあったの〉

「帰ってもやらなきゃいけないことがあるんです」

〈時間はとらせないって言ってるでしょ〉

「どこにいるんですか」

〈通りを隔てたコーヒーショップ〉

 森嶋が振り向くと、窓に面したスツールで理沙が携帯電話を耳にあて森嶋に手を振っている。

 一瞬迷ったが諦めて通りを渡っていった。

「ストーカーですか」

 コーヒーカップを持って理沙の横に座った。

「嬉しいでしょ。美人に付きまとわれて」

「なんの用です。早く帰って休みたいんです」

「政府は首都移転を本気で考えてるの」

 森嶋は口元に持っていったカップを落としそうになった。