第1章
10
午後5時、部屋にいた全員が役所を出た。
森嶋がマンションの前に来たとき、携帯電話が鳴り始めた。
理沙だ。
〈ちょっとだけ話をしようよ。時間はとらせない〉
「今日は色々あって、疲れてるんです」
〈あなたが定時に役所を出て帰ってくるなんて珍しいでしょ。何かあったの〉
「帰ってもやらなきゃいけないことがあるんです」
〈時間はとらせないって言ってるでしょ〉
「どこにいるんですか」
〈通りを隔てたコーヒーショップ〉
森嶋が振り向くと、窓に面したスツールで理沙が携帯電話を耳にあて森嶋に手を振っている。
一瞬迷ったが諦めて通りを渡っていった。
「ストーカーですか」
コーヒーカップを持って理沙の横に座った。
「嬉しいでしょ。美人に付きまとわれて」
「なんの用です。早く帰って休みたいんです」
「政府は首都移転を本気で考えてるの」
森嶋は口元に持っていったカップを落としそうになった。