ある年の四半期末、売上がターゲットに行くか行かないか微妙なラインになった。私は広告表示のための「蛇口」を少し緩めてもらえないか、日本法人の検索広告プロダクト担当のプロダクトマネジャーを通じて、本社の担当に交渉をした。

 しかし、なかなか首を縦に振らない。ちょっと蛇口を緩めるだけで、売上は上がる。しかし、簡単にそれをしないのが、グーグルなのである。

 しつこく交渉を行い、最終的に本社は折れてくれたが、それでもそれは条件付きのものだった。言われた言葉は、「一部で条件を緩めてテストを行う。しかし少しでもユーザーエクスペリエンスを損なうものであったら、すぐに元に戻す」。

 広告表示の条件を緩めて、表示数は増えたものの、下位に表示された広告をクリックした人たちの多くは、遷移先のページをほとんど見ずに離脱していた。蛇口を緩めたのは一部の地域を対象としてわずか1日だけのことで、翌日には元に戻された。

 すべてはユーザーのためという実に「無邪気な」想いのために、その四半期の日本法人は、結局ターゲットにわずかに届くことができなかったのである。

(この原稿は書籍『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)