歴史上の破壊者には、ある共通した考え方がある。競争優位をポジショニングや強みに求めず、どこまでも顧客の立場で考えるということ。それを徹底しているのがアマゾンだ。新旧激突時代を生き抜くために、ディスラプター(破壊者)の戦略から、最強の思考法を学ぶ。グーグル、ソフトバンク、ツイッター、LINEで「日本侵略」を担ってきた戦略統括者・葉村真樹氏の新刊『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から、内容の一部を特別公開する。落合陽一氏推薦!
「人間中心」アプローチの
最強の思考法とは?
デザイン・シンキングという言葉を聞いたことがあるだろうか?
デザイン思考とも呼ばれるこの思考法は、そもそも暗黙知であった優秀なデザイナーの思考法を形式知として、そうではない人たちでも新しい発想を生み出せるようにする手法であるが、「人間中心アプローチ(Human-centered Approach)」とも呼ばれている。
この数年、新しいサービスやプロダクトの創造を狙う日本の大手企業にも、注目されているものである。私もPwCコンサルティングにおいて、デザイン・シンキングのアプローチによる戦略コンサルティングを、小売やホテルなどのサービス業、銀行や保険などの金融機関などにも提供していた。
しかし、現実には「デザイン・シンキング」に関する理解は、あくまでバズワード(流行り言葉)に過ぎないのが実態で、その言葉が具体的に意味すること、そしてその意義というものがきちんと理解されているとは思えないケースに出会うことが多い。
読者の中にも「またデザイン・シンキングなんて言葉が出てきたよ。何だかわかったようでわからなくて苦手なんだよな」という人がいるかもしれない。
デザイン・シンキングの思考法を簡単に説明すると、「人間を中心に」問題点を見出し、それを解決するアイデアの発散と収束を繰り返すことで、最終的に新しい発想を得るといった流れである。
その手法にはいくつかの種類があるが、デザイン・シンキングのムーブメントの中心とも言えるスタンフォード大学のd.schoolによると、デザイン・シンキングは以下のようなプロセスで構成されるという。
1 Empathize(共感)
プロダクトやサービスのユーザーを観察したり、インタビューしたりすることで、相手が感じている問題意識に「共感」し、情報収集を行う。
2 Define(問題定義)
前のステップで得られた膨大な定性データをもとに、インサイト(=潜在的ニーズ)を探り、解決すべき「問題」を対象となるユーザーの視点で「定義」する。
3 Ideate(創造)
ブレインストーミング、ブレインライティング、SCAMPER法など様々な発散思考の手法を用いて、問題を解決するためのアイデアを「創造」する。
4 Prototype(プロトタイプ)
創造したアイデアを必要最低限の機能が装備されたレベルで、受容度を確認するために、目に見える「プロトタイプ(試作品)」という形で製作する。
5 Test(テスト)
プロトタイプを実際のユーザー層が現実に使うような状況で使ってもらうテストを実行し、ユーザーの反応を観察し、問題点や改善策を明らかにする。また、改善策を講じたプロトタイプを再度製作し、改めてテストにかけて反応を確かめる。
出典:Stanford University d.school “Introduction to Design Thinking PROCESS GUIDE”
要は「対象者の問題意識に共感し、問題を明らかにして、それを解決するアイデアを導出したら、アイデアを形にしたプロトタイプを製作、プロトタイプを実際に対象者に使ってもらい、試行錯誤を繰り返す」というのが、デザイン・シンキングということなのだが、理解できる人はどれだけいるだろうか? 少なくとも私は、これではまったく理解できない。
理解するには、まずデザイン・シンキングが注目されるようになった背景を理解する必要がある。