AI、VR、AR、IoT……多くの企業はバズワードに振り回されている。テクノロジーは手段であるにもかかわらず、それを目的化して、それ自体で何かを提供しようという姿勢から脱することができていない。目的と手段を履き違えてはいけない。今や「テクノロジーそのものを売る」ことでビジネスは成り立たないのだ。しかし、そのことを理解する心強い企業が国内にもある。グーグル、ソフトバンク、ツイッター、LINEで「日本侵略」を担ってきた戦略統括者・葉村真樹氏の新刊『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から、内容の一部を特別公開する。落合陽一氏推薦!
日立とコマツを伸ばした原動力
日本の多くの電機メーカーが沈む中、辣腕経営者たちの改革で蘇り、今やグローバルIoT企業との勝負に挑んでいる企業がある。それが売上高10兆円・従業員数30万人の巨大重電企業の日立製作所である。
そんな辣腕経営者の一人に中西宏明会長(2018年現在)がいる。彼は2010年、日立が約7800億円の巨額赤字を計上した翌年、社長に就任、日立の復活を主導した。
そんな中西会長が様々なインタビューなどで強調することがある。言い方は異なるものの、要点としては「テクノロジーではメシは食えない」、そして「お客様が望むのは課題を解決してくれること」の2点である。
この原材料はいくらで買って製造コストはこれだけだから、いくらもうかります、というモデルでは、もう通用しない。自分たちのソリューションを提供することで、お客さんの売り上げが増え、どのくらいコストを下げられるから、得られたプロフィットを「7対3」とか「6対4」でシェアしましょうという発想・説明をしなければいけない。顧客体験をどう創るかが競争軸です。
『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』で詳しく書いているが、「テクノロジーそのものを売る」ことでは今はビジネスは成り立たない、「テクノロジーを使った新しいサービスを売る」ことでやっと成り立つものなのだということを、中西会長流に表現した言葉と言える。
同様の観点でビジネスを構築して成功しているのが、建設機械メーカーの小松製作所(コマツ)である。製造業の中でもコマツは建設機械を遠隔監視する「コムトラックス」で、モノを売った後のサービスで稼ぐということを実践している。
コムトラックスはGPSを搭載したコマツの建設機械の稼働管理システムで、どの機械がどの場所にあって、エンジンが動いているか止まっているか、燃料がどれだけ残っているか、どれくらいの時間稼働したのか、といったすべてのデータをコマツのオフィスで把握することができるようになっている。
コムトラックス誕生のきっかけは1998年と20年も前のことで、盗難された油圧ショベルでATMを壊して現金を強奪するという事件が日本で多発していたことから、盗難対策としてGPSをつけたことに始まる。
2001年にはコムトラックスはコマツの建設機械の標準装備となり、現在、GPSを搭載したコマツの建設機械は全世界で30万台を超え、その30万台から継続的に収集されるデータは競争上の優位性にもなっている。
盗難防止という課題解決から始まったGPS搭載が、世界的企業を支えるバックボーンとなったというデザイン・シンキングの典型的な成功例である。