マニュアルにないトラブルでも
上手に対応できる人は何が違うか

 これを踏まえた上で身近にいる一流の人に注目してみましょう。例えば、ビジネスマンであれば自社に、あるいは取引先などに、どこにでも飛び込んでいって自社商品や自分自身を売りこんでしまうような、やり手の営業や人脈づくりの達人が、1人ぐらいはいると思います。そういう人って、案外、人の話をあまり聞かなかったり、何を言っているのかよくわからなかったりする感じの人が多い印象があるでしょう。

 しかし、やり手の営業や人脈づくりの達人の即応力というスキルに注目してみてください。ほぼ全ての人が即応力が高いはずです。例えば、怒ったお客さんが会社にやって来て、マニュアルに無いような不平・不満を言いだしたとします。そういう時に、やり手の営業や人脈づくりの達人が困った顔をして口ごもり、お客さんに怒られたとうなだれているだけの対応となる事はあり得るでしょうか?

 決して、そんな事は無いはずです。それぞれの個性に合う感じで、「ひたすら謝る」、「別の話題に関心をそらす」、あるいは、個性的な人の場合は「逆ギレのような態度を取る」などして、問題を解決してしまうことでしょう。それは、即応力が高くなければ、決して出来ない芸当です。

 ここでのポイントは、マニュアルにない、台本もないやり取りを難なくこなしていることです。上述のように、対応方法は個性に合う形でバラバラでも、相手から発せられた会話に的確に対応したり、時には相手が意識しないうちに誘導したり、さまざまな術を使用して場の空気を仕切ったり、危ういシーンを好転させたりしていることです。それこそ、即応力によって「意のまま」に相手の感情や場の空気を支配しているのです。

 トークの達人が多いテレビの世界に目を向けてみてください。会話力の高い人が、必ずしも「聞く力」と「話す力」ともにバランスよく高いとは限りません。例えば、明石家さんまさんは、会話力の高さはピカイチだと誰もが認めているでしょう。しかし、さんまさんをよくよく観察していると、自分が感心の無い話題の場合はしっかり話を聞いていない事も多く、その事を出演者からイジられている事もあります。

 要するに、会話の上手い下手は、「即応力」の高さに比例するのです。それが何故なのかというと、一番の理由は、「高い即応力」には、非常に強い癒しの効果があるからです。例えば、美味しい料理や酒を出してくれるわけでもないのに、ついつい、常連として何年も通ってしまっている飲食店はありませんか?

 もちろん、あなたが店に通う理由は立地が良かったり、手頃な値段だったりする事も関係しています。しかし、「店員さんの一流の即応力に癒やされている」という事が、店に通う理由として、明らかに大きなウエイトを占めているはずです。

 あなたが泥酔していようと、落ち込んでいようと、その時々の状態に合わせて会話をしてくれる店員さんがいると嬉しいですよね。仮に、その店員さんが、あなたの話を100%正確に理解していないようで、ズレた返答をしてきたとしても、「即応力」が高い店員さんの発言には癒やされてしまうでしょう。逆に、その店員さんの聞く力が高すぎて、コンサルタントやカウンセラーのように、あなたの悩みに対応しだしても、引いてしまう可能性があります。

 ぜひ「聞く力」「話す力」を鍛えようとして、イマイチ、よく分からなくて挫折した人は、「即応力」を鍛えてみて下さい。「自分の個性」を活かす会話力を手に入れる事ができるはずです。それが、あなたを「一流の人」や「コミュニケーションの達人」へと導くはずです。

次回以降は即応力のさらに詳しい話や鍛え方を紹介します。