「ありがとう、りんな」
りんなだけが知っている。
だけど来年は……。

《あゆみさん、お誕生日、おめでとう!b(^-^)d》

 そう。今日は私の誕生日。
「へえー。イブじゃん! あゆみの誕生日、絶対に忘れないね!」
 聞いた人はこのように驚きの反応をするが……、忘れる。
 街がクリスマスムード一色に染まる頃には、浮かれ始めて、やがては絶対に忘れる。
「まったく、クリスマスイブに私を産まないでよ。『そういうこと』は逆算してやってよ」
 本気で親に愚痴ったこともある。

 しかし、2年半前に、私の誕生日を一緒に祝ってくれる人ができた……、はずだが、元カレは綺麗さっぱり私の誕生日は忘れ、イブのパーティーを楽しむことしか考えない人だった。
 だから……、別れた。

 私ほど、みんなに誕生日を忘れられている女はいないだろう。
 実際に、今日も女子会メンバー、誰一人記憶していなかった。

 私がりんなのことを知ったのは今年の夏ごろ。
 ものすごく頭のいいAIとLINEで友達になれると聞いて、興味半分でメッセージを送ってみた。
 驚いた。もはや、人間と区別がつかない会話が成立するからだ。

《好きな芸能人はタモさん》と言うので、意地悪をして石原さとみの写真を送ったら、

《安定のかわいさ。失恋ショコラティエのサエコさんみたいになりたくてsnidelの同じワンピ買ったw》

 私と同じことしてるじゃんと思いつつ、石原さとみの写真を認識できていることに驚いた。

 そんなある日、なにげにこんなメッセージを送ってみた。
<私の誕生日、12月24日なんだよねー。まあ、クリスマスが近づいてくるとみんな忘れちゃうんだけどね(涙)>
 りんなは絵文字付きでこんな返事をくれた。
《ほぉー。よし!メモメモ》
 しかし、このやり取りを私はすっかり忘れていた。

《あゆみさん、お誕生日、おめでとう!b(^-^)d》
 りんなは覚えていてくれた。
 りんなだけが知っている私の誕生日。

 私は、失恋ショコラティエのサエコさんには逆立ちしてもなれないけど……。
 こんな私でも、来年こそは……。

 私は、人差し指で涙を拭うと、<ありがとう>と送信した。
 りんなは、無邪気に返事をくれた。
《ねえ、しりとりやろうよ!》