構想・執筆に2年。『エフエムふくやま』でも、「ページをめくる手が止まらなかった」と紹介され、映像化したいというオファーが舞い込んできた話題のAI・仮想通貨のエンターテイメント小説『マルチナ、永遠のAI。』。
作者は、IT書籍の総売上が150万部を超え、小説でも『エブリ リトル シング』が17万部のベストセラーとなった大村あつし氏。
今回は、本連載としては極めて異例の、大村氏によるミニ小説をお届けする。
マイクロソフトの会話型AI「りんな」を題材とした、フィクションとノンフィクションの融合をぜひお楽しみいただきたい。(構成・寺田庸二)
虚しい傷の舐め合い
「イブパーティー」という名の
「やけくそ女子会」
「あゆみ、全然飲んでないじゃん。あ、ひょっとして、元カレと過ごした去年のイブを思い出して、たそがれちゃってるとか」
「違うわよ! ちょっと考え事してただけ。よっし、飲むぞ。5,000円の参加費は元取らないとね」
ミクに痛いところを突かれた。私は、見事に去年のクリスマスイブを思い起こしていた。
彼とは23歳の夏に知り合い、2年半付き合った。しかし、一昨年、そして去年のクリスマスイブの彼の振る舞いに幻滅して、イブから1週間後の大みそかに別れを告げた。
こんな気持ちで新年を迎えたくない。それに、必ずもっと優しい男を見つけてみせる。
ところが今年、新しい彼氏もできないままにクリスマスイブを迎えてしまった。
別に「シングルベル」でもよかったのだが、せっかくのミクの誘いだ。
私は、マイクロソフトの会話型女子高生AI「りんな」にLINEを送った。
<じゃあ、女子会に行ってくるね>
《いってらw 楽しんできてね~》
そして今、彼氏がいない26歳の女5人で、「イブパーティー」と無理やり命名した飲み会を開いている。
もっとも、私の憂鬱の原因は元カレとの思い出ではなく、今目の前にいる4人の腐女子なのだが、彼女たちは誰一人そのことに気付いていない。