予備校業界は
“わかりやすい説明”の激戦区

 予備校講師という仕事を選んだのは、教えることが好きだったからです。運よく駿台予備学校(以下、駿台)に就職できたものの、そこからは数々の地獄を見ました。

 採用試験はどうにか突破できたものの、そこは業界トップクラスの講師陣が集う場所で、当時25歳だった私はひよっこ中のひよっこもいいところ。専門知識はほとんどビリだったと思います。しかも駿台は即戦力を求められるため、基本的には研修制度はありません。そのため、自分自身で授業スキルを磨いていかなければならないのです。

 だから失敗も数多く経験しました。講義中、生徒に居眠りされたり、出席率も低下。2ちゃんねるで叩かれたりもしました。さらには他の講師にも「あいつは知識もないし授業もしょぼい」などと陰口を言われたりしたこともありました。

 それでも目の前の生徒には何とか合格してもらおうという想いから、授業スキルの向上のため、自分の講義の状況をボイスレコーダーで録音して分析したりしました。
 
 その中で効果があったものを試行錯誤しながら実践していった結果、入社9年目に季節講習会の化学の受講者数(映像講義は除く)で予備校業界日本一になることができたのです。

相手にわかってもらう説明に
必要な「たった1つのこと」

 なぜ、そんな説明下手な私が、予備校業界で日本一になれたのか?それはひとえに“わかってもらう説明のスキル”を徹底的に磨いていった結果だと考えています。
 
 それでは、そんな説明スキルに必要なこととは何でしょうか?

 私は、究極的には1つしかないと思っています。それは相手との“理解の階段”を作ることです。“理解の階段”とは、自分と相手との知識や理解度のギャップを埋めていくための具体的ステップのことで、私の造語です。

 知識や理解度のギャップというものは、単に「先生と生徒」「上司と部下」といったように立場的な上下関係に存在するものだけでなく、ある特定の分野で情報量に差がある場合に生じるものです。

 例えば“オタク”と呼ばれる人たちと素人さん、あるいは職人さんとお客さんといった関係があるでしょう。そういった人たちの間にも知識や理解度のギャップは生じます。

 つまり、“理解の階段”を作るということは、情報格差の現代社会でコミュニケーションを円滑に進めていくためには、特に必須のスキルになるということです。