取締役会はリスクやチャンスをコントロールする役割

村上:日本企業ってよくダイナミックな構造変化が苦手って言われますよね。外部環境が変わった時に次のトレンドに乗れなくなる。この原因の1つに、取締役会があると私は思います。
たとえば、ある事業がダイナミックに成長すると、その事業を管轄している取締役の発言力が数の意味でも属人的にも増して、取締役会の判断がその事業に寄ってしまう。つまり声が大きくなる。そうすると、今とは違う方向にリソースを振ろう、といった議論が明らかにしづらくなってしまうんです。

小林:それ、わかるわ。

村上:しかも、取締役のメンバーは、事業で結果を出した人で構成されているがゆえに、事業成長に対して遅効性がある。過去に事業レベルで成果を出した人が、しばらく経ってから会社全体の意思決定をする立場になるわけですから。実は変化を先読みするには、今はまだ儲かっていない新規事業などに張っておくべきかもしれないのに、遅効性がゆえにその判断が難しい取締役会の構成メンバーになってしまいかねない。結果、ダイナミックな構造変化へ大胆に、スピード感を持って対応することが難しくなってしまう。

小林:確かに。たとえば、生産系の人が上がってくると、それに連動して、取締役の議論の重みが変わったりしますね。

村上:「うちは生産が命やろ!」ってなるのは容易に想像できる。

小林:それで言うと、グローバルに急激に成長している化学メーカーの社長の講演を伺った時に非常に面白く感じた話があります。その会社は、それまではB2Bが主体で、すり合わせや過去の実績といった大手顧客のマネジメントが重要やったんやけど、グローバル市場はB2C領域が主体で、まったく違う観点を取り入れないといけない状況やった。そこで、「よし、視点を変えよう!」という話をしたいんやけど、同じ人ばかりを集めていると、そういう変化がどんどんできなくなってしまう、と。

村上:取締役会というのは、世の中の流れを敏感に察知し、そのリスクやチャンスをコントロールする役割を求められているはず。だからこそ、取締役の構成は、極めてタクティカル(戦術的)に考えなければいけない。これはただでさえ難しいことなのに、出世に響くやら社長が決めるやら言っていたら、いよいよタクティカルな経営体制を作り上げることは難しくなってしまう。

小林:そういう意味では、アメリカが取締役に入る執行側の人数を絞っているのは、実は良いことだと思います。世の中の変化に素直になれる。だけど、一度増えた取締役の数を減らすのってめちゃくちゃ大変やな、というのは感じます。たとえば取締役のLTI(Long Term Incentive)の権利確定タイミングが、日本の場合は退職所得となることを意図して「取締役退任時」となっている例が一番多かったりするなど、そもそも「取締役から退任して会社に残る」ということが制度として整備されていないことが多いんですよね。かくいう私も、前職のディー・エヌ・エーで取締役から退任して執行に専念した際に色々と難儀しました(笑)。
大なり小なり年功功労報償的側面が強かったから、報酬面などもそれに最適化されちゃってるんですよね。若い会社で、取締役の扱いを年功功労報償に振ってしまうと、いざ取締役会の構成を変えようとしたときにすごい大変なんじゃないかな。結果として、「当時の主力事業の人がたくさん取締役に残ってるけど、今は会社の中身が違うぞ」みたいなことが起こってしまうんだと思います。

*次回に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年12月31日に掲載された内容です。

挑戦できずに衰退する企業の取締役会に共通すること朝倉祐介 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。


挑戦できずに衰退する企業の取締役会に共通すること村上 誠典 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。


挑戦できずに衰退する企業の取締役会に共通すること小林 賢治 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。