先週の日本株式市場は公募増資が相次いだことで軟調な展開となり、大規模な希薄化懸念を憂う声や、成長戦略を示さないままに公募増資をする経営陣への批判などが聞かれた。公募増資にまつわる批判は、今に始まったことではないが、今回それがよりいっそう叫ばれる理由は、希薄化の度合いが大きいこと、そして、企業各社の将来戦略の不透明感がより高いことであろう。
しかし、つい1年~半年ほど前は、同じような公募増資に対して市場は歓迎の意を表明していた。東芝、三井住友銀行、野村證券など、それぞれ大規模な公募増資を実施したが、その後の株価は堅調に推移したという経緯がある。当時も戦略の不透明さはぬぐえず、まずは目先の経営危機に備えた資金手当てを実施したという印象が強かった。しかし、増資によって経営危機を回避できうるという点が評価されたのである。
公募増資から読み取れる
企業経営陣のシグナル
今、半年前に比べると景気は持ち直したと言われている。そのため、当時と同様に「経営危機の回避」だけが公募増資の理由では市場、投資家に受け入れられず、もっと説得力のある理由を提供せよ、という状況である。しかし、企業経営陣にしてみるとやはり今回も経営危機の回避が目的であり、より端的には二番底に備えた増資であろうと想像される。
4月から6月の第1四半期は国全体が危機を脱して景気が回復したように見えたが、7月から9月の第2四半期に関しては、企業経営陣の実感が一般公表される数字以上に悪かったのではないだろうか。
公募増資に対する希薄化懸念や成長シナリオの提示の必要性は、5年ほど前の、コーポレートファイナンスが定着する前の日本ならいざ知らず、今や上場企業経営陣なら重々承知のはずである。それでも、増資に走るのは、7月から9月期の感覚から本能的に危機がやってくることを予知し、危機が表面化して増資がそもそも不可能になる前に資金手当てをしておこうということではないだろうか。