「忖度」が横行したオウム
麻原=神に逆らうことの恐怖

西田公昭/1960年生まれ。立正大学心理学部対人・社会心理学科教授、脱カルト協会代表理事。関西大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。破壊的カルトのマインドコントロールについて実証研究を行い、内外の学会に発表してきた。オウム事件や統一教会など、多数の裁判で法廷証人や鑑定人として召喚される。「マインド・コントロールとは何か」「信じるこころの科学:ビリーフ・システムとマインドコントロールの社会心理学」など著書多数 Photo by Kazutoshi Sumitomo

 オウムの凶行犯罪で、弟子たちが自ら「やります」と手を挙げたケースは1つもないのです。地下鉄サリン事件で散布役だった林郁夫は、麻原自らが「試練を与えて乗り越えさせろ」と指名しました。ほかの4人の散布役は、教団内の地位が基準になって選ばれた。もちろん、選ばれた後は「どうすればミッションを成功できるか」と、自ら知恵を絞って行動したことでしょう。しかし、これをもって「自発的にやった」と言えるでしょうか?

 坂本弁護士一家殺害事件については、麻原は「殺せ」と直接的な指示は出しておらず、「ポアしろ」という表現を口にしただけです。

――弟子たちは、それを忖度して「殺さなければ」と考えた、と。

 安倍首相への役人の忖度が問題になっていますが、弟子たちにとって麻原は、安倍首相なんかは比べ物にならないくらい怖い人物です。何しろ、麻原は「神」なんですから。逆らって地獄に落ちることの恐怖は、われわれ凡人には図り知れないものがあります。

――オウムには、物理学や医学、化学などを学んだ信者が大勢いました。地獄や輪廻転生など、合理的に証明しようもない話を、理系で学んだ人たちが信じ込んだのは意外でした。

 いや、むしろ理系の人には、より魅力的に映ったんじゃないでしょうか?科学は万能ではないですよね。医学が進歩しても人は死ぬし、数学だって物理学だって矛盾や分からないことは山ほどある。理系の高等教育を受けた人たちは、科学の限界を思い知るんです。

 そんなときに、科学では説明できない事象を、「魂」「輪廻」「超能力」といったキーワードを使いながら、一見論理的に語る人が現れたらどうでしょう?人間は大昔から、こうした寓話的、宗教的な話を生活の中に溶け込ませながら生きてきた。誰にだってなじみのある話だとも言えるのです。ましてや当時は、マインドコントロールやカルトの危険性についても、知識がゼロ。こうしたことが世に知れたのは、オウム事件以後のことなのです。

――マスコミや文化人は当時、オウムや麻原を褒めたり、番組に呼んだりしました。そのことが、信者を増やした一因でもありました。

 その通りです。当時は有名な学者たちはもちろん、ダライ・ラマ14世までもが麻原を持ち上げました。「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)をはじめ、さまざまなテレビ番組にも出演しました。

 ひかりの輪の上祐史浩代表が、オウム時代に女性信者殺害現場にいた、ということが今頃になって明かされていますが、彼は基本的に嘘つきだし、オウム時代には麻原に次ぐ地位にいた最高幹部。直接、人を殺していないまでも、居合わせたのなら罪は大きいはずです。彼にインタビューするマスコミが後を絶たないのも大問題だと思いますよ。