ピーター・ティールすら「不可能」と言ったプロジェクト
ミネルバ大学を立ち上げたのは、教育業界では無名の起業家だ。
だが、その無名の起業家のアイデアは元大統領候補だった政治家、ハーバード大学やペンシルベニア大学の元学長、オバマ元大統領の顧問をはじめ、既存のトップ・エリート校で教えていた教員、スタッフたちを突き動かした。不可能と言われた開校初年度からの学位認定審査にも、当の認定団体の元副理事長が積極的にサポートしたほどだ。既存トップ大学の改革推進者たちの圧倒的な支持を得て、プロジェクトは推進されていった。
私もまた、運命的にミネルバと出会った。私は日本の大学を卒業後、化学素材メーカーで新規用途開発を担当。ケンブリッジ大学の経営管理学修士(MBA)課程に進み、修了後に経営戦略コンサルティング会社、外資系メーカーのマーケティング部長を務めた後に独立した。
一方私は、自分が英国で経験した実践的な学習方法を実現する教育機関を日本につくれないか模索していたのだが、そのときに偶然目にした記事でミネルバ大学を知り、すぐにコンタクトを取った。実際に話を聞くと、そのコンセプトは興味深く、知れば知るほど自分が過去にビジネスで経験した壁を解決する教育機関であると確信した。日本では無名であったこの大学の認知活動を応援したいと志願し、日本での活動には懐疑的だったアジア統括担当者を説得し、約2年間、日本連絡事務所代表として関わった。
本書は、単なる大学の創立秘話ではない。誰もが(スペースXをはじめとする数々の冒険的ベンチャー企業を設立したイーロン・マスクに投資したピーター・ティールですら!)見逃した、新規参入が不可能と考えられてきた市場に独自のアプローチで参入を実現し、閉鎖的だと考えられてきた業界に、今までアクセスできなかったユーザーを導き入れ、既存市場におけるさまざまなキーパーソンたちからも高い支持を獲得したプロジェクトの事業戦略を解説したものだ。 そして、このプロジェクトの課題と今後の発展性、日本に対する示唆についても解説する。