なぜ「キャンパス」をなくしたのか?

 別の質問をしてみよう。

 それなりに権威のある実証研究で2年後に90%の確率で壊れるとされている商品がある。そしてその商品の価格は400万円もする。あなたは、その商品を購入するだろうか。

 なんと馬鹿げた質問だろう――きっとそう思っているはずだ。

 仮にその商品が150万円だろうが、50万円だろうが買う人はいないだろう。

 しかし、大学ランキング会社が毎年トップ10位以内に掲載する大学のほとんどは、実はこうした商品を販売している。そしてあなたも私も含め、多くの人たちはそうした商品の存在をずっと許してきた。

 ミネルバ大学は人々が長らく質問することすら忘れていたトップ・エリート大学の「学びの質」と「非効率な経営」を徹底的に考え直し、高等教育をあるべき姿に戻す使命のためのベンチマークとして設立された。既存の大学が解決できずに苦しんでいる「変化の速い社会で活躍するための実践的な知恵」、「複雑化した国際社会や異文化への適応力」、「高騰する学費と学生ローン」に対して見事なまでに具体的な実例で、その解決法を提示している。

 たとえば、すべての授業をオンライン化したミネルバ大学は、郊外に広大な土地を購入し、豪華なキャンパスを新たに建設する必要がなく、「都市をキャンパスにする」経営が可能だ。滞在都市にある最新の研究施設や芸術施設、図書館などを利用し、企業との共同プロジェクトを実施できる。この授業で学んだことを実社会ですぐに実践し、習得していく経験学習は、社会と隔絶された講堂の中で教授による一方通行の講義を聞くよりもはるかに学習効果が高いことが証明されている。

 オンラインで授業を行うメリットは、まだある。物理的なキャンパスが必要ないため、学生が世界中を巡り、異文化にどっぷりと浸ることを可能にした。学生たちは4年間で7つの国際都市を巡回し、滞在地で現地の企業、行政機関、NPO等との協働プロジェクトやインターンを経験しながら現地の人たちと同じ生活を営む。世界中から集まり、同じ寮に住む学生たちは共同生活を通じて、濃密なコミュニティを築いていく。実社会と学校のシームレスなつながりをグローバル規模で実現している。

 また、教員は自分の滞在している研究施設から授業を行うことができ、その分移動コストと時間を研究活動にあてることができる。

 そして、豪華なキャンパスや施設の建設に伴う負債を持たないこの大学の学費は年間約150万円、既存の米国トップ・エリート大学の3分の1未満だ。さらに、国籍、性別、人種、同窓生の有無によって合格基準を変えず、公平で返済不要の奨学金制度を採用したことで、世界中から2万人を超える学生が応募している。合格率は1.9%と世界でも最も難関な大学の1つであるが、日本人学生も3名合格・進学している。