しかし現在、体罰による指導はあり得ないだろう。今と昔の決定的な違いは、昔の強豪校の監督は厳しい上に「怖い指導者」だったことだ。暴力とポジション(背番号)を与える権限で選手を支配し、精神的に追い詰める監督のチームは、選手らに実力があって勝ち進んでも、競り合う場面でミスを重ね、甲子園には手が届かなかった。

 運動部顧問による体罰のニュースを見るたびに、当時のことを思い出す。

「ゲータレード」が変えた常識

 前述した通り、練習や試合中の水分補給は我々世代の数年後に“解禁”された。

 きっかけは、スポーツドリンクの草分けで、アメリカのストークリー・ヴァンキャンプ社(現在はペプシコ傘下)が製造・販売する清涼飲料水「ゲータレード」の登場だ。スポーツには水分補給が有効という文化とともに、スクイーズボトル(水筒)などのグッズも一気に広まった。

 これに先駆け、筆者の野球部にはのけぞるような大事件が起きていた。3年生で最後の大会で敗れて引退し、新レギュラーの後輩と夏休みに練習試合を組んだときだ。試合中に凡退した打者がベンチに戻る途中、グラウンドの散水用に設置されていたバックネットの蛇口から水を飲んでいた。

 試合後、後輩に「何だ、あれは?」と尋ねると「キャプテンが倒れて救急車で運ばれたんス」。監督はスポーツ指導の最先端だった大学出身で、旧態依然とした指導に批判的だった。「お前ら、なんで水分補給しねぇの?不思議だったんだけど」の一言で、一気に解禁されたという。後輩たちとの試合に負けたことより「それ、早く言ってくれよ…」というショックで、反省会のお菓子屋ではみんな、無言でかき氷を頬張っていたのを覚えている。

 なぜ、水分補給が禁止だったのか。