今春放映されたテレビドラマ「ブラックペアン」(TBSテレビ)では、手術支援ロボットがストーリーの鍵を握った。海外製ロボットで手術を行ったり、国産製品の開発に主人公らが巻き込まれたりした。ストーリーはフィクションだが、現実世界でも手術支援ロボットの開発競争は繰り広げられている。治療機器の世界メガである米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)はITの巨人である米グーグルと手を組み、参入を目論む。『週刊ダイヤモンド』7月21日号の第1特集「製薬 電機 IT/医療産業エリート大争奪戦」の拡大版として、産業のキーマンたちのインタビューを特別連載でお届けする。第6回はJ&J日本法人の日色保社長に聞く。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)
――ドラマ「ブラックペアン」に登場した手術支援ロボットは、実際に医療機関で導入が進んでいます。ロボットの力を借りることで、人の手首の動きを凌駕する曲げ方や回転が可能になり、手の震えも補正してくれる。より精緻な手術が可能になっています。米インテュイティブ・サージカルの「ダヴィンチ」が市場をほぼ独占してきましたが、2019年に基本的な特許が切れる。日米欧で複数企業が参入を計画し、J&Jは米グーグルとの合弁会社を作って開発を進めています。
単に人間がやってきたことを真似してやるとか、人間の関節は360度に動かないのでそれを補完するというのは第一世代ロボットです。うちは米グーグルと組んで第二世代の開発を進めています。
新世代では手術をナビゲーションします。まだ経験の浅い外科医が、例えば30年選手の医師1万人分ぐらいのデータを集めて解析した情報によるガイダンスを受けられるんです。
――人工知能(AI)機能を搭載するんですね。
そうです。メカニカルなファンクションだけではなく、デジタルなファンクションが入ってくる。データ解析技術を画像技術やセンサー技術と組み合わせれば、リスクが低く成功率の高い手術ができるようになります。
――追突防止機能を搭載した自動車は、追突しそうになったら自動でブレーキがかかります。手術支援ロボットも、血管や神経を傷つけてしまいそうな瞬間、それを防ぐようになるんですか。
手術で神経を傷付けると、術後に機能障害などが出てしまいます。神経が密集している部分を手術するとき、いかに神経を避けるかは外科医の腕の見せどころであり、経験のなせる技です。経験の浅い外科医は、師匠である医師や学会で発表されるビデオなどを見て勉強しています。
今後は膨大な手術例を解析したデータからも、どういうところに神経があって損傷するリスクが高いかなどを学べるようになる。おっしゃるように神経を損傷する直前のところでアラームが鳴って止まるということもできるようになるかもしれません。
――国内メーカーは特許が切れたタイミングでの発売を目指しています。J&Jとグーグルの陣営は同じタイミングで第二世代レベルのものを最初から投入するんですか。AI機能を搭載した機器に対する国の認可体制はまだ整っていません。
AIの部分をどこまで盛り込むかは、今まさに詰めているところです。全てを最初から搭載するとなると、発売が遅れてしまいますし。かといって満たされていない医療ニーズに応えるものでなければ、出してもあまり意味がない。
――ダヴィンチは高額です。より低価格にすることでもニーズに応えられるのでは?