マイクロソフトの復活を担うサティア・ナデラCEOは、まず「会社のカルチャーを変えること」を目指した。ドラッカーが「文化は戦略を上回る」と言ったように、いかに素晴らしい戦略があっても、実際に社員一人一人が実行できるカルチャーがなければ変革はできない。従業員12万人を抱える10兆円の巨大企業は、染みついたこれまでのカルチャーをどう変えていったのか?3000人以上を取材したブックライターの上阪徹氏が、日米幹部への徹底取材で同社の全貌を描きだす新刊『マイクロソフト 再始動する最強企業』から、内容の一部を特別公開する。

「文化は戦略を上回る」
会社を変えるには、まずカルチャーを変える

 ナデラCEOが目指していたのは、マイクロソフトという会社のカルチャーを変えていくことだった。会社を変えるにはカルチャーを変えていく必要がある、ということに気づいていたのだ。

 例えば、トヨタ自動車の経営は世界に称賛されている。その手法の多くも共有されている。

 しかし、なかなかトヨタ自動車の真似はできない。文化が違うからだ。文化が変わらなければ、会社を変えていくことは実は難しい。

 ピーター・ドラッカーもこんなことを言っている。「文化は戦略を上回る」。詳しくは書籍『マイクロソフト 再始動する最強企業』で紹介しているが、カルチャー変革は、マイクロソフトの今回の変革の重要なポイントになっている。

 コミュニケーションのトップとしてナデラCEOの変革の戦略づくりに加わっているコーポレートバイスプレジデントのフランク・ショー氏は、それを象徴するようなシーンを覚えている。

 マイクロソフト本社の経営幹部、コーポレートバイスプレジデント約120人を前にして、CEOになった朝にミーティングが行われたときのことだ。

「彼が言ったのが、『グロース(成長)マインドセット』という言葉でした。もっと会社としてリスクを取らないといけない。成長のためにマインドを変えないといけない。だから、リーダーのみんなにはリスクを取ってくれることを期待している。自分にできることをもっと考えないといけない。変わらないといけない。能力は、自分が思う以上に持っている。それを利用すべきだ、と。間違いをしてもいい、とも言いました」

 大企業になり、保守的な動きも目立つようになっていた。リーダーたちは彼のメッセージを、部下たちに伝えていった。

「とても新鮮でした。ミスをおかしたら、そこから学べばいい。リスクを取ってうまくいかなかった場合、それを責めるのではなく、教訓を得たと言おうじゃないか。それを次回の自分の仕事に活かせばいいと。こうして試行錯誤をしてもいいんだ、という土壌ができたんですね。その結果として生まれてきた製品やサービスもあるんです」

 幹部を前にした最初のミーティングは、強烈なエネルギーが感じられたという。

「リーダーはいろんなアイディアを持っています。部下としてやるべきか、やるべきでないかと迷っていたりすると、なかなか動けません。しかし、そのミーティングの後は、ずいぶん動きやすくなりました。CEOが我々にリスクを取れ、チャンスを利用しよう、と言うんですから、最初はちょっと怖さもありましたけどね(笑)」

 ここで出てきた「グロースマインドセット」こそ、マイクロソフトのカルチャー変革のキーワードになった言葉だ。すべてを成長という視点で捉えていこう、という考え方。

 何か絶対的に正しいものがあるのではなく、常にオープンでいろんなシグナルに対して前向きに取り組んでいく。自分をどんどん変えていく。チャレンジや変化を促進し、積極的に新しい取り組みをやっていこうというメッセージである。

 このカルチャーに対する考え方は、ミッションなどが記されたステートメントシートに、「Our culture」として付け加えられ、こんなふうに描かれている。