アップルは敵ではなくパートナー
脱Windowsでコラボレーションする会社へ
CEO就任から1ヵ月ほどで、ナデラ氏は自らシリコンバレーを訪れ、競合他社に相対している。そして、競合していた企業はもちろん、オープンソフトウェアの世界のエンジニアたちとも次々と提携を結んでいくのだ。
これは、ITの世界の人には驚天動地の出来事となった。
ソフトウェアの世界で圧倒的な力を誇ってきたマイクロソフトは、競合他社との協力ではなく、自社製品ですべてをまかなう道を選んだ。それだけの強さを持っていたからだ。
しかしオープンな姿勢を持たなかったことは、結果としてマイクロソフトの取り組みを後手後手に回させてしまうことにもなった。これが後に、マイクロソフトを停滞させた原因になったとも言われている。
先に登場した、日本マイクロソフト前社長の樋口氏はこう語っていた。
「PowerPointもExcelもWordも、コンセプトはあるのに遅れるんですね。タブレットもモバイル端末もそうでした。クラウドもそう。でも、今ようやく先頭に立ったのではないでしょうか」
象徴的な例は、長年のライバル、アップルと手を組んだことだ。アップルをやっつけないといけない、アップルに勝たないといけない。iPhoneより良いものを作らないといけない……。そんな号令のもと、マイクロソフトは対アップル戦略を組んできた。ところが今は違う。前出の岡部氏は語る。
「サティアになって変わったのは、iPhoneは我々の敵などではなく、マイクロソフトのアプリやサービスをたくさん使ってくれる素晴らしいデバイスだ、という発想です。アップルはマイクロソフト製品を利用する、いいユーザーをたくさん抱えている会社なんだ、と。そこでiPhone向けの魅力的なアプリを作って、iPhoneでもっとマイクロソフト製品を使ってもらおう、という戦略に切り替わったんです」
実際、かつてのOffice事業部では、言うまでもなくWindowsのためだけにソフトウェア が作られていた。ところが、iPhone/iPad用はもちろん、アンドロイドでも使えるソフトをマイクロソフトが社内で作り始めたのだ。
アップルだけではない。サーバー部隊にとっては、オープンソフトウェアのLinuxが敵だった。マイクロソフトのシェアを脅かす邪魔な存在。ところが、今はマイクロソフトのクラウドビジネスの重要なパートナーになっている。
マイクロソフトのイベントでは、「Microsoft loves Linux」と書かれたメッセージがスクリーンに大きく映し出され、スタッフはTシャツを身にまとっていた。
データベースの世界で競合していたオラクルは、クラウドプラットフォーム「Azure」事業にとってはパートナーになる。セールスフォース・ドットコムも競合として激しい争いをしてきたが、Office 365というクラウド事業で見れば、CRMと呼ばれる顧客管理システムの連携パートナーになる。
一方で、競合から見ると、マイクロソフトのソフトウェアを使っているユーザーは世界で十数億人いる。アップルにしても、iPhone上でOfficeが動くことは、ユーザーにとって大きな利点になる。双方が、ウィンウィンになるということだ。
さらに、パソコン用だったWindowsがゲーム機のOSにもなり、IoT機器のOSにもなった。そして一部は有償になるが、多くが無料の完全なプラットフォームに切り替わった。岡部氏は続ける。
「これからはWindowsにAI(人工知能)機能がどんどん入っていきますから、WindowsのパソコンとiPhone、Windowsとアンドロイドを一緒に使うことがますますメリットになっていくはずです。これもキャンペーンワードになっていますが、“Windows loves all your devices”なんです。アップルとか、マイクロソフトとか、Windowsとか、そんなことを言っている時代から、もう完全にシフトしているんです」