かつて全盛期は過ぎたと評されたマイクロソフト。しかし、今の評価はまったく違う。株価は史上最高値を記録し、ポスト・スマホ時代の覇者とさえ言われるまでになっている。「終わった」と思われた会社はなぜ復活できたのか。大変革は、新しいCEOに就任したインド人のサティア・ナデラCEOの哲学的なある問いから始まった――。企業に変革が求められる今、最初に考えるべき、最も重要な問いとは何か?3000人以上を取材したブックライターの上阪徹氏が、日米幹部への徹底取材で同社の全貌を描きだす新刊『マイクロソフト 再始動する最強企業』から、内容の一部を特別公開する。

マイクロソフトCEOが最初に考えた企業にとって「最も大切な質問」

巨人はなぜ蘇ったのか?
「終わった」と思われた企業の復活の秘密

 2015年秋、マイクロソフトは創業から40年目にして、株価で最高値をつけた。これは世界の投資家が、マイクロソフトという会社に、かつてないほどの期待をしているということを表したものだった。

 グーグルやフェイスブック、アマゾンなど新興企業の台頭で、もはや古い会社だと思われていたマイクロソフトが、大きく変わっていたのだ。

 しかし、これで終わりではなかった。マイクロソフトの株価は、その後もどんどん上昇を続けている。2018年6月末時点で株価は100ドル。これは、最高値をつけた2015年秋の約2倍にも達している。マイクロソフトへの期待は、ますます高まっているということだ。

マイクロソフトの株価の推移

マイクロソフトCEOが最初に考えた企業にとって「最も大切な質問」元データはYahoo! Finance、グラフの出典はNewsPicksより
https://newspicks.com/news/3033745/body/

 だが、株価が最高値をつける直前まで、マイクロソフトは長く低迷期にあった。といっても、業績が悪かったわけではない。むしろ売上高は年々、上がっていた。利益も出していた。しかし、「世界の時価総額ベスト5」の企業ともなれば、売り上げや利益が上がっている程度では話にならないということだ。

 アメリカの「WIRED」で、マイクロソフトを長きにわたって取材してきたジャーナリスト、ジェッシ・ヘンペル氏によって書かれた「蘇る巨人」というタイトルの2014年の記事がある。ウェブサイトの翻訳記事から一部、紹介してみよう。

 マイクロソフトは創業当初、すべての家庭のすべてのデスクにPCを普及させることを目指していた。(中略)あれから40年。マイクロソフトの全盛期は過ぎ去ったというのが、目下シリコンヴァレーの大方の見方だ。2014年10月のマーク・アンドリーセンとの公開対談で、投資家のピーター・ティールはマイクロソフトを「テクノロジーのイノヴェイションを阻害する」と評した。2014年度には売上高が前年に比べて12パーセント近く増加して860億ドルを超えたとはいえ、中核事業は減少傾向にある。ほぼすべての企業がWindowsのPCやサーヴァーを所有し、使用していた10年以上前から、こうした兆候は現れていた。
出典:http://wired.jp/special/2015/microsoft-nadella/

 2014年の時点で「全盛期は過ぎ去った」などと評されていたのだ。ところが、今の評価は違う。象徴的なのが、株価だ。「終わった」と思われていた会社はなぜ復活できたのか。その象徴こそが、サティア・ナデラCEOの就任だった。

 創業者ビル・ゲイツ氏の後を受けた2代目CEO、スティーブ・バルマー氏が会社を率いた後半から始まった会社の変革は、ナデラ氏によって大きく前進する。ビジネスの中身からミッション、カルチャーまで大変革を推し進めていくのだ。

 新しいCEOが取り組んだのは、マイクロソフトという会社を作り替えることだった。それは、2017年秋に出たCEOの著書のタイトルに象徴的に表れているかもしれない。

『ヒット・リフレッシュ』。“再発見”という言葉である。このインド人CEOは、マイクロソフトという会社の新しい価値を再発見し、ゼロから変えようとしてきたのである。

 CEO就任時、ナデラ氏は47歳。インドに生まれ、情報科学の修士号取得のため、21歳の誕生日に渡米。アメリカ中西部やシリコンバレーでの経験を経て、1992年にマイクロソフトに入社した。

 エンジニアとしてさまざまなイノベーションを主導してきたが、哲学的な信念を持ち、人々を鼓舞し、ミッションの達成を重視するリーダーとして社内では知られていたという。

 それにしても、業績が決して悪いわけではない10兆円企業を、ビジネスのドメインも含めてすっかり変えてしまったのだ。しかも、20年以上この会社にいた人物なのである。どうしてそんなことができるのか。

 逆にいえば、そういうことができる人物をCEOに抜擢した、と見ることもできる。ナデラ氏の著書にもあるが、マイクロソフトはそう考えたのだ。プロ経営者ではなく、ナデラ氏を選んだのである。

 マイクロソフト本社のウェブサイトには、経営執行チームとして15人の名前と顔写真が出ているが、左上に出ているナデラ氏から数えて右4番目に位置している側近中の側近、グローバルセールス マーケティング&オペレーション エグゼクティブ バイスプレジデント兼プレジデント、ジャン=フィリップ・クルトワ氏はこう語っていた。

「今まで40年間、マイクロソフトはビジネスを展開してきましたが、環境の変化のスピードはますます速くなってきています。求められていたのは、どんな未来になっていくのかということを、勇気を持って定義していくことでした」

 マイクロソフトの全世界のセールスとマーケティングを率いている人物の言葉である。今、自分たちの足元にあるものから未来を見てはいけない。勇気を持って、来るべき未来を想像したのだ。そこから、変わるべき現実を直視していったのである。

 これこそ、「自分たちは何のために存在しているのか」を問うことだった。世界最大のソフトウェア会社が、そこから始めたのだ。