第2章

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「ウォーミングアップ?」

 理沙が聞き返した。

 眉根を寄せ、いぶかしげな眼で優美子を見つめている。

「本番が始まる前の大地の準備運動。いつかは明言できないけれど、必ず大きな地震が来るそうです」

「そんなの書いてないわよ。昨日が本番前のウォーミングアップだなんて」

「ちょっと言えないでしょ。あれがウォーミングアップだって。東京から人がいなくなります」

「政府は確かめてるんじゃないですか。高脇レポートの真偽について」

「たしかに確認なしでは発表できる内容じゃないわね」

 理沙は森嶋の言葉に続けた。

「あなたたち、上の人たちに、その話をするつもりなの」

「それが分からないから理沙さんに会ったんです」

「私だって分からないわよ。でも、特ダネってことは確かね。事実を確かめられればって話だけど」

 理沙はしばらく無言で考え込んでいた。

 ところでと、コーヒーカップを取ってひと口飲んで、改めて2人を見つめた。

「あなたたち、意外と優雅なのね。デートなんかしてて。いま国交省は大忙しなんじゃないの」

「僕たちのグループは――」

 森嶋は出かかった言葉を呑み込んだ。優美子が森嶋の足をけったのだ。

「何なの、僕たちのグループって。もう聞いてしまったんだから、言わないと調べるだけよ。あなたたちの名前を出してね」

「新しいグループができたんです。特別なプロジェクトのために」

「それが首都移転なのね」

 優美子がうんざりした顔で森嶋を見ている。

「森嶋君に聞いたんじゃないわよ。村津さんが国交省に帰って来てるでしょ。昔、彼を取材したことがあるのよ。あの人が復帰したってことは、首都移転プロジェクトが復活したってことでしょ」

 2人は頷かざるを得なかった。