第2章
5
「ウォーミングアップ?」
理沙が聞き返した。
眉根を寄せ、いぶかしげな眼で優美子を見つめている。
「本番が始まる前の大地の準備運動。いつかは明言できないけれど、必ず大きな地震が来るそうです」
「そんなの書いてないわよ。昨日が本番前のウォーミングアップだなんて」
「ちょっと言えないでしょ。あれがウォーミングアップだって。東京から人がいなくなります」
「政府は確かめてるんじゃないですか。高脇レポートの真偽について」
「たしかに確認なしでは発表できる内容じゃないわね」
理沙は森嶋の言葉に続けた。
「あなたたち、上の人たちに、その話をするつもりなの」
「それが分からないから理沙さんに会ったんです」
「私だって分からないわよ。でも、特ダネってことは確かね。事実を確かめられればって話だけど」
理沙はしばらく無言で考え込んでいた。
ところでと、コーヒーカップを取ってひと口飲んで、改めて2人を見つめた。
「あなたたち、意外と優雅なのね。デートなんかしてて。いま国交省は大忙しなんじゃないの」
「僕たちのグループは――」
森嶋は出かかった言葉を呑み込んだ。優美子が森嶋の足をけったのだ。
「何なの、僕たちのグループって。もう聞いてしまったんだから、言わないと調べるだけよ。あなたたちの名前を出してね」
「新しいグループができたんです。特別なプロジェクトのために」
「それが首都移転なのね」
優美子がうんざりした顔で森嶋を見ている。
「森嶋君に聞いたんじゃないわよ。村津さんが国交省に帰って来てるでしょ。昔、彼を取材したことがあるのよ。あの人が復帰したってことは、首都移転プロジェクトが復活したってことでしょ」
2人は頷かざるを得なかった。