これから数十年の間に、首都直下型地震、東海・東南海・南海地震などの巨大地震の発生が懸念されている日本。東日本大震災の復興財源捻出が難航を極めているのは周知の事実だが、こうした巨大地震の発生が相次げば、多くの国民の命が危険にさらされるのはもちろんのこと、圧倒的な資金不足によって復興どころか国家の破綻さえ導きかねない。都市震災軽減工学の第一人者である東京大学の目黒公郎教授は、「今の日本における防災対策は今後の巨大地震のスケール感をまったく理解していない」と語るが、日本が最悪の事態を避けるために、行政はどのような防災体制を早急に築くべきだろうか。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)
被災人口は東日本大震災の5~8倍に
今の防災対策は「スケール感」がない
――現在、首都直下型地震、東海・東南海・南海地震など超巨大地震の発生が懸念されています。将来の地震災害を最小限に留めるために、どのような視点から防災対策を行うことが必要でしょうか。
地震学的に活動度の非常に高い時期を迎えている今、最も重要なのは、被害額や被災地域の大きさ、被災者数の規模を理解することだ。東日本大震災の被災エリアは非常に広範囲にわたったが、人口密度が高い地域ではなかったため、被災人口は面積のわりには少なかった。しかし、首都直下型地震や東海・東南海・南海地震が発生すれば、被災人口は東日本大震災の5~8倍になる。このスケール感を正しく理解できなければ、防災対策でも大きな過ちを生むだろう。
東日本大震災直後から自衛隊は最大規模の10万人オペレーションを実行した。では、被災人口が5倍や8倍になれば、それに対応する規模のオペレーションができるだろうか。今回の活動を踏まえ、様々な課題を解決しても、人的制約から10万人を大きく超えるオペレーションは無理だ。
また、今回被災した地域内で最も大きな都市は仙台市だが、中心部が大きな被害を受けたわけではなかった。首都圏も被害を受けたとはいえ、損傷程度は軽微であったので、それぞれ被災地を支援することができた。だが、首都直下地震や東海・東南海・南海地震が起こった場合には、高い人口密度と重要な機能が集約するエリアが被災地になる。その意味とスケール感を理解できていなければ、対応はうまくいかない。
そう考えると、現在の日本国内における防災対応力だけで足りうるかは大いに疑問である。全壊・全焼建物数約13万戸、経済被害25兆円と言われている東日本大震災では、被災自治体の支援に入った被災地外の自治体の数と規模を調べると、被災自治体の被害程度に応じて、例えば、被災建物率(100×被災建物数/被災自治体の全建物数)を用いると、被災建物率10%の自治体には、最低でもその自治体の職員数と同じ数の職員数を持つ自治体群が、被災建物率が80%、90%というエリアでは、最低でも自分の職員数の10倍規模の職員数を有する自治体群が支援している。将来の大規模地震災害時に、これだけ多くの職員を動員することができるだろうか。
もちろん、行政対応だけではない。政府中央防災会議は、首都直下型地震と東海・東南海・南海地震によって、全壊・全焼建物が約200万棟、経済損失が200兆円規模の被害を想定している。直後のガレキ処理から復旧・復興を担うのは建設業の人たちだが、近年の建設業の市場縮小とともに、就労人口は減少、大規模プロジェクトの豊富な経験とスキルの高い団塊世代も引退している。数が縮小し、質も低下している状況下で、この規模の災害からのスムーズな復旧や復興は労働力の点からも非常に難しい。