第2章

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 総理官邸地下に設けられた危機管理室は、沈痛な空気に包まれていた。

 能田総理は目で閣僚の数を数えた。やはり10分前と同じだ。

 全部で7名。全閣僚の半分にも満たない。これで会議は成り立つのか。非常事態の会議なので仕方ないのだろうが、マスコミに叩かれるのは必至だ。危機対応がなっていない、閣僚の任命責任、政権与党の資格なし……。言われ続けてきた言葉が浮かんだが、そのすべてが否定しようのない事実である気がしてくる。いや、事実なのだろう。与党の3分の1が役にも立たない1年生議員だ。

 外務大臣は新幹線の中だ。熱海の手前で止まっていると連絡が入った。財務大臣と防衛大臣は車で官邸に向かっているが渋滞に巻き込まれている。おそらく到着は明け方になるということだ。

 官房長官までがまだ到着していない。現在、上野近辺で立ち往生していると報告があった。だから最初からヘリで迎えに行けば良かった。法務大臣は青山に住んでいるにも関わらず、ヘリを要求してきた。どこに降りろというのだ。歩いてでも来ることが出来る距離だ。思わず怒鳴りつけようとした声を呑み込んだ。今は法務大臣より、防衛大臣や財務大臣のほうが数倍も必要だ。

 いずれにせよ、緊急時のマニュアルがほとんど役に立っていない。

 出席閣僚たちは正面のディスプレイに見入っている。

 部屋の正面に三面ある大型ディスプレイには、二面にテレビ中継、右端のディスプレイには被害状況が映し出されている。

 真夜中のターミナル駅に溢れる帰宅困難者、駅の階段や通路に座り込んだり横になっている人々。携帯電話が通じず、公衆電話に並ぶ長い列。止まった電車から降りて駅員に誘導されながら線路上を歩く人たちもいる。地下鉄、地下街からは、出口に殺到する人々の映像が映し出されている。

 国家の緊急時に頼りにすべきがテレビ局の映像か。総理は心の中で呟いた。

〈首都東京の弱点が浮き彫りになった現実です。来ることが分かっていた首都直下型地震、政府は十分な準備もなく、この時を迎えてしまいました〉

 テレビではアナウンサー、コメンテイタ―共に、東京の脆弱性と政府の準備不足を強調している。

「勝手なことを言いおって」

 総理は無意識のうちに呟いていた。

「最新の被害状況は分かっているか」

「正確な数値はまだ入ってはいませんが、現在のところ死者29名、病院に運ばれたものは300名を超えているようです。何件か火事が出ましたが、すべて鎮火に入っています。一般住宅の倒壊はかなり多くなりそうですが、高層ビルの倒壊の恐れはありません」

 しかし、死者の数が少なすぎはしないか。死者のうち、地震が直接原因で亡くなったのは一桁だ。残りは地下街や建物から出口に殺到したための圧死や、車の衝突、暴走した車に撥ねられたものだ。冷静に行動すれば死なずにすんだものをと思っても始まらない。

 中央防災会議が出した首都直下型地震の被害想定は、1万3000人ではなかったのか。ホッとすると同時に腹立たしさがこみ上げてくる。