言うなれば、信頼残高はマイナスからのスタートであった。工事が終わるまでの過程でも、市では廃棄物を不法投棄しないよう、受注企業に追跡写真を撮らせたり、二次受けなどの下請け企業を書類で提出させ、それを市がチェックするなど、お互いが莫大な労力を割くのが常であった。

 しかし、オガールプロジェクトではそのような書類は最低限のものしか存在しなかった。にもかかわらず、市のプロジェクトの時よりも人に愛され、はるかに質の高い施設が次々と生み出され、それによって経済が回る。「自分がいままで役所でやってきたことはなんだったのか」と入江氏は感じたという。

自治体業務フローへのアンチテーゼ

 今後、人口減少が見込まれる中、老朽化する公的不動産に頭を悩ませる行政組織は全国に存在する。今回の大東市の事例は、市営住宅の新たな出口戦略の観点から、注視されるべきだろう。

 さらに加えると、この事業は入札制度などを初めとした、行政組織の現行の業務フローへのアンチテーゼにもなり得る。公平性の名の下に行政では様々な制約がつきまとうが、行き過ぎた公平性には懸念もある。

 災害避難所において、人数分のおにぎりが確保できないために配布せず腐らせてしまう、人数分の毛布が確保できないため、目の前に寒さで苦しんでいる人がいても、配布することができないことがあったと言われるが、このような“公平性”の解釈は有権者である市民の総意のようには思えない。

 今回の事例が成功し、公的不動産の新たな出口戦略が構築できることを願う。少し気が早いかもしれないが、その成功の暁には、まちづくり事業会社を中心に生まれるスキームを深く分析し、でき得る限り自治体本体の業務フローにも生かすべく突き詰めてほしい。

 入札制度は検証されるべき筆頭であるが、過去に生み出された制約や慣習によって、自治体ではさまざまな部署で数多の“おにぎりや毛布”が捨てられ続けているのではないだろうか。

(株式会社ホルグ代表取締役社長 加藤年紀)