カスハラ写真はイメージです Photo:PIXTA

現代のクレーム対応は、単なる謝罪や修正では不十分だ。真摯な対応が顧客満足に繋がる一方、誤解が生じれば深刻なトラブルに発展することもある。本記事では、古本店の実例を交え、効果的なクレーム対応とその重要性について解説する。※本稿は、津田卓也氏『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(あさ出版)の一部を抜粋・編集したものです。

店のルールに則った対応をしたのに
ブチ切れる客にはどうすればいい?

 クレームは「お客様の期待を超えられなかった」もしくは「著しく機嫌を損ねた」場合に起きます。

 近年、クレーム対応をめぐるトラブルが増加しています。その多くのトラブルはお客様との対話のなかでの、たった1つのボタンの掛け違いから起こっています。

 私が古本店で、店長をしていたときのエピソードです。

 ある日、バックヤードで仕事をしていると、大きな怒鳴り声が聞こえました。

 様子を見に行くと、年配の男性が「上司を出せ!」「土下座しろ」と、買い取りカウンターで、真っ赤な顔をしてアルバイトのスタッフを怒鳴りつけているのです。

 近くにいた別のスタッフに事情を聞くと、

「査定にいらしたお客様です。お持ち込みくださった本が、古いもので値段が付けられなかったため、マニュアル通り『値段は付けられませんが、お客様の代わりにこちらで処分いたしましょうか?』とご提案したところ、お怒りになってしまいました」

 と、教えてくれました。

 さて、皆さんはお客様がお怒りになった理由は何だと思いますか?

・スタッフの態度が悪く不愉快だった
・本に値段が付かないことに不満を感じた
・処分すると言われ、不当に本を奪われると不審に感じた

 どれもありそうですね。

・お店に嫌がらせをしようと、古い本をわざと大量に持って来てごねている

 なんて、意地悪な理由も推測できるでしょう。

 いずれにしろ、お客様が怒っている本当の理由が分からなければ、正しい対処の仕方は分かりません。

 お客様のお怒りの原因を探るべく、私は接客を交代しました。お話を伺うと、お客様が幼い頃から大切にしてきた本、それも、亡きご両親との思い出がたくさん詰まったものをお持ちくださったことが分かりました。

「自分も高齢になってしまい、もうこの本を読むことはない。でも、とても良い本だから、誰かに読んでもらえたらと」

 そんな想いで大切な本を預けたのに、価値の査定もろくにせず「古いから捨てる」と言われたように感じ、お客様はつい、声を荒らげてしまったのだそうです。

 しかし、アルバイトのスタッフの対応は、間違いではありませんでした。