ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、ユニクロを世界的なアパレルブランドへ育て上げた。なぜ、同じく低価格志向で「共食い」のリスクもあるGU(ジーユー)を立ち上げたのか? 果敢な経営判断の背景を読み解く。(イトモス研究所所長 小倉健一)
「日経帝国」を突き崩せ
市場においてまだ弱い立場にあり、または強力な競合が存在する状況下で、企業が新たな戦略を立案することは魅力的な挑戦である一方で、極めて成功のハードルが高いものだ。物量やリソースで圧倒するライバルに対しては、多少のアイデアを思いついてもすぐに模倣され、技術はチープ化してしまう。
私が生息していた、そして今も片足を突っ込んでいる業界は「日本の経済メディア」というフィールドである。ここでは日経新聞や日経BP(日経ビジネス)といった日経帝国が、業界のトップとして君臨してきた。
紙の雑誌に関しては、かつて私が所属していたプレジデントがこの日経帝国に挑戦する構図となっていた。プレジデントは月2回の刊行で、編集部には約20名しか部員がいなかった。他方、日経は国内で1350人、海外で173人の記者・編集スタッフを抱え、社員数は3054人にのぼるという。
同じことをしていてもプレジデントは勝てないため、読者層を書店・コンビニで雑誌を購入する人々に絞り込み、内容も日経の読者を意識しつつも、日経にはできないことに特化する戦略を採用した。
日経の読者は日経新聞や日経ビジネスを主に配達で受け取っており、書店やコンビニでの購入者は少ない。書店やコンビニでの売り上げを伸ばすには、まず書店やコンビニで売れているものを徹底的に研究することから始めた。