新刊『ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論』の刊行を記念して、著者の朝倉祐介さんと、事業家のけんすう(古川健介。@kensuu)さんとの対談をお送りします。2012年にIVS(インフィニティー・ベンチャーズ・サミット)のパネルディスカッションで一緒に登壇して以来、仕事抜きの友人関係というお二人。けんすうさんのリクルート在籍時代や起業経験をひもときつつ、資金調達や事業創造のポイントを語り合った前編につづき、この後編では、自分がやっている仕事の価値を知ることや、ひいてはお金や時間を使う難しさに話が広がります。(撮影:野中麻実子)

給料制は、1年間の時間をまとめ買いされたのと同じ

朝倉祐介さん(以下、朝倉)『ファイナンス思考』発売を機に、こうした対談を数回実施してきた中でよく出る話なんですが、「ファイナンス的な発想が大事なのはわかるけど、とはいえ個人が身につけるハードルは結構高いよね」と。どうすれば、身に付きますかね。

けんすう(古川健介)
1981年6月2日生まれ。2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvに成長させる。2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡。2006年、株式会社リクルートに入社、事業開発室にて新規事業立ち上げを担当。2009年6月リクルートを退職し、ハウツーサイト「nanapi」を運営する株式会社ロケットスタート(のちに株式会社nanapiへ社名変更)代表取締役に就任。

けんすうさん(以下、けんすう) たしかに難しいですよね。個人の日常生活だと、費用を減らして利益を出そうという「節約」に傾きがちです。賢い人は今は金利が安いから、借金して不動産投資するなど、いろいろ資産運用してたりしますけど、一部な気がします。ちょっと敷居高いですよね。

 一方で、時間などを含めた「資産」を最適な配分にしよう、くらいであれば、やりようがあるかもしれません。自分の100%の時間を使って1社から500万円もらうよりも、50%の時間で250万円もらい、残り50%の時間で500万円の仕事を見つけるほうがいい、とかですね。

朝倉 少しキャリア論めいた話になりますが、自分個人の価値を意識してみるのはいいかもしれませんね。『ファイナンス思考』では、「ファイナンスの目的は企業価値を最大化すること」と定義していますが、上場企業であれば、会社は常にマーケットにさらされて、時価総額が決まっているわけですよね。

 一方で、個人が「自分の価値」を意識する局面というのはまずない。組織の中で働く人であれば、金銭的な価値を意識する機会というのは、「営業ノルマを達成して、インセンティブ報酬を狙おう」といった程度の発想にとどまってしまいがちなんじゃないでしょうか。でも、たとえば自分がほかの会社に行ったらいくらもえるのか、といったことを客観的に考えて価値を意識するだけでも、ファイナンス的な頭の体操になるかもしれない。冷やかしで転職面接を受けても仕方ないけど、人材としての市場価値を把握できればオプションが増えるし、生きるうえでの自由度が高まる気がしますね。

けんすう 僕は最近、友達に副業させてみてます。自分が副業すると、単に収入が増えるわけですけど、そうではなくて、自分の仕事を友達に数万円で発注する意外と喜んでやってもらえるうえ、自分は空いた時間をほかの仕事にも使えるようになります。

朝倉祐介(あさくら・ゆうすけ)
シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィへの売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。 業績の回復を機に退任、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。2017年、シニフィアン株式会社を設立、現任。著書に、『ファイナンス思考』のほか、新時代のしなやかな経営哲学を説いた『論語と算盤と私』(ダイヤモンド社)。

 しかし、会社員ってファイナンス思考が身につけにくい職業なんですよね、ただ給料をもらうだけだと、何もしなくても毎月定額が振り込まれてしまう。単純にいうと、半年~1年間の時間をまとめ買いをされた状態だから、自分の仕事の価値がどのぐらいなのかもつかめない

朝倉 給料をもらう体験という点では、自分で経営していたスタートアップが大会社に買収されて入ってみたら、毎月給料が支払われるようになって、コペルニクス的転回というか、パラダイムの大転換で、びっくりしたなあ。それまで、給料日というのは会社の現預金残高が減る日であり、憂鬱でしかなかったから(笑)。結果が出ようが出まいが、きちんと同じ額が振り込まれるなんて、一体どんな仕組みになっているんだろうと。この生活に慣れたらダメになると感じました。

 けんすうが言う副業と似た考え方で、Gaiaxの、自分の強みでないことについて月5万円以上は外注費を使わなくてはいけない、という制度は面白いよね(同社のソーシャルメディアマーケティング事業部では、月5万円の外注費使用を義務化している)。5万円分の仕事って、こんなものだと発注してみて価値がわかるし。

けんすう リクルート時代には、高校生のプログラマーに調査を頼んで、自動化したレポートを送ってもらっていたんです。そうしたら、あいつ、すごい情報もってる!と僕の評価が上がるわけです。

朝倉 クラウド・ソーシングだよね。今はもっとやりやすいはず。

大企業では大きな失敗ほどリスクがない

けんすう アメリカで、ソフトウェア開発者が、自分の仕事を全部中国企業に外注していたのがばれて、クビになったというニュースありましたよね。

朝倉 それだけ外部のリソースを自在に使って成果を出せるなんて、メチャクチャ優秀だから、会社もクビにせずに昇進させればいいのに(笑)。

 そんな人のことを思うと、日本の会社であれば、仮に会社に大損させたところでクビになるわけでもないし、給料も大きくは下がらないだろうから、ある意味リスクフリー。無責任なことを言いますが、いろいろ挑戦できる余地があると思うんですよね。

「会社にいるなら、大失敗したほうがいい」とけんすうさん

けんすう 大手商社の人から聞いた話で、1億円の損は怒られるけど、100億円の損を出したら評価される、と。要は「目の前のお金をどれだけ動かせたかで、人の器が決まる」というんですね。100億円損をさせた人には、100億円稼げる可能性がある。だから、むしろ大きな失敗をしたほうがリスクはないのかなと思いますね。

朝倉 面白いね。映画監督のジェームズ・キャメロンも、自分が得意なのは、物凄い大きなお金を使うことだ、と言ってたな。たしかに、1億円使うのが得意か、2000万円使うのが得意か、100億円使うのが得意か、って全然違う

けんすう 借金と同じだよね。100万円だと追い詰められるけど、1億円ぐらいいくとみんな優しい。飛ばれたら困るから。やっぱり会社にいるなら、大失敗したほうがいいですね。この『ファイナンス思考』も100万部刷っちゃうとか(笑)。

朝倉 ホントそうだね(笑)。面接に来た人が「1億円儲けをつくりました」、というより、「会社に100億円損させました」と言ったら、なんでそんなことになっちゃったの?!と聞きたくなりますよね。