EUが歩み寄りを見せた背景には、EUが抱える複雑な政治事情があると推察される。イタリアの政情不安や英国のEU離脱などの懸念事項がある中で、ギリシャの問題を再燃させることは、欧州における政情不安に一段と拍車をかけることにつながる。寝た子を起こすことなどできないというのが、EUの本音だったと言えよう。

 ユンケル欧州委員長とドラギ欧州中銀(ECB)総裁といったギリシャ問題に対処してきたEU側の指導者が19年秋に引退することも、先般のユーログループでの合意を後押ししたと考えられる。彼らの任期中にこの問題で一定のけじめをつけることは、退任に花を添える上で重要だったと言えるだろう。

ギリシャ政権にとっても
望ましかった金融支援卒業

 他方で、今般のタイミングでの金融支援からの卒業は、ギリシャのツィプラス政権にとっても歓迎すべきものであった。

 最新の世論調査によれば、中道右派の新民主主義党(ND)が支持率で首位(35%程度)であり、ツィプラス首相率いる急進左派連合(SYRIZA)は2位(20%程度)にとどまっている。ギリシャは任期満了に伴う総選挙を19年9月に控えており、支持率が低迷するSYRIZAにとって金融支援からの卒業は有権者への格好のアピールになる。

 そもそもSYRIZAは15年1月の総選挙で政権を獲得した際、かつての中道二大政党(左派の全ギリシャ社会主義運動と右派のND)による政権運営を、ギリシャが慢性的に金融支援を要請する事態に陥る元凶だったとして厳しく批判した。そして彼らは、EUに対して金融支援や財政緊縮の見直しを要請することを公約に掲げた。

 SYRIZAであるからこそ、ギリシャは金融支援から卒業することができた。それに加えて、債務負担の軽減まで獲得できた。一連の成果は、かつての中道二大政党では実現し得なかったはずだ。ツィプラス首相はこうしたストーリーを語ることで、これまでの政権運営の正しさを大々的にアピールすることができる。