新規顧客ばかりを重視する
「新規信仰」を捨てろ

 WOWOWでは、加入が解約を上回り総加入件数が増加することを「純増」、解約が上回って総加入件数が減少することを「純減」と呼んで、「純増」のためにがんばっていました。
 結果的に加入数を純増できたとしても、「大量加入、大量解約」は、それだけでのコストが膨大になってしまうため、避けなければなりませんでした。

 では適切な加入解約数を実現するために何をすればよいのでしょうか。
 それはモチベーションが低く、解約しやすい人を獲得せずに、長期加入になりやすい、解約しにくい顧客の獲得割合を増やすことです。

 つまり総加入数の純増を適切な費用で実現する最強の方法は、大幅な割引施策を連打する手法を改め、長期加入の可能性が高い人を確実に獲るやり方にスイッチすることでした。

 しかしそのためには、それまでの社内の「信仰」と呼んでもよいほどの新規加入への依存を覆す必要があります。実際に営業手法を変えるためには、多くの人に理解を得てその「新規信仰」を捨ててもらう必要があり、まだ高い壁がありました。

「サブスクリプションモデル」の曲がり角

 従来の「良いものをキャンペーンで安く売れば顧客はついてくる」という、企業中心、製品重視の考え方から、日本のすべての企業が脱皮すべき時期を迎えています。

 特に、WOWOWと同じように、「顧客が一度契約を結ぶと継続的にサービスが提供される」ビジネスモデル、いわゆる「サブスクリプションモデル」の企業では、今一度、マーケットや営業手法を見直す必要があるでしょう。

 サブスクリプションモデルは、多くの業界、企業に当てはまります。たとえば業界でいえば、保険業界、携帯電話業界、新聞業界などがそれに当たります。

 中でもわかりやすい例をあげると、携帯電話のキャリアなどでは、大手数社が莫大な費用をかけてメディアを使った広告競争を展開し、加入者の獲得に躍起になっています。すでに日本の携帯電話市場は飽和しており、新規加入者を獲得するには他社から乗り換えてもらうしかありません。

 そのための広告展開ですが、効果的な顧客増には結びついていないようです。それでも、大量のコマーシャル投入などに見られる広告競争をやめられないのは、「広告をやめたら、うちのキャリアだけ加入者が落ち込むのではないか」という漠然とした危機感があるからでしょう。

 携帯電話業界も、新規加入者ではなく既存顧客の継続に軸足を置いたマーケティングを展開する時期に来ています。実際最近では携帯電話のキャリア各社も既存加入者の満足度向上に向けたサービスを競っている印象を受けます。

 日本企業の多くは経済成長期の体育会型マネージメントによる「勢いで前進する営業」を良しとする雰囲気を引きずっています。「新規の売上を拡大しよう」のほうが、「顧客を知り、解約を防止しよう」より分かりやすく、社員の気持ちをまとめやすい実態があるからです。その結果、顧客や利益を減らす構造にはまっている企業は少なくありません。

 成熟期の社会で勝ち続けるためには、「新規信仰」から脱皮し、顧客中心のリテンションマーケティング型の戦略が必須だと私は考えています。

(続く)