プルデンシャル生命2000人中1位の成績をおさめ「伝説のトップ営業」と呼ばれる川田修氏が、あらゆる仕事に通ずる「リピート」と「紹介」を生む法則を解き明かし、発売たちまち重版が決まった話題の新刊『だから、また行きたくなる。』

この記事では、本書のキーメッセージであり、選ばれるサービスの条件「レベル11」を実践する、パリにある3つ星レストランのエピソードを特別掲載する。(構成:今野良介)

結婚記念日のサプライズ

数年前、フランスはパリに行ったときのことです。

私はアートなどにはあまり興味がなく、ルーヴル美術館も1時間半で見終わってしまったのですが(普通は3日あっても足りないと言われています)、絶対にもう一度行きたい、と思った場所があります。

それは、エピキュールという、フランス料理のお店です。このお店に行くためだけにパリに行ってもいい、と思うくらい素晴らしかったのです。

何がそんなに良かったのか。ひと言でいえば、サービスのクオリティの高さです。ギャルソンの人たちは、情報を交換するときにあまりしゃべらない。ぜんぶ「目配せ」です。歩き方から佇まいまで、すべてがかっこいい。

フランス料理ではメインディッシュが運ばれてくるとき、ボウルを逆さまにしたようなクロッシュという蓋がかぶされてきます。その蓋を外すときも「せーの!」とやるのではなく、「あうん」の呼吸で同時に開く。その動きが実にシャープでスマートなのです。

でも、何より感動したのは、隣のテーブルの老夫婦のお客さまへのサービスでした。

この日は、そのご夫婦の結婚記念日だったようです。最後のデザートのときに、ギャルソンが銀のプレートの上に花を乗せて持ってきました。

何をするのかと思って見ていたら、お客さまの目の前でピッピッピッと花びらをぜんぶ抜いて、その場でテーブルの角を使って、ハートマークをつくったのです。

パリの3つ星レストランで度肝を抜かれた驚愕の「そうじ」テーブルの花びらが「ハート型」に

このご夫婦にとって、一生忘れられない「後味」になったのではないでしょうか。

サービス業というのは、お客さまの人生の物語の一コマに、素敵な感動を提供することができる仕事なんだと改めて実感しました。

私がサービスの素晴らしさについて片言の英語で話していると、ギャルソンの代表の方が私たちのことを気にかけてくれて、実に楽しい時間を過ごすことができました。

私の頼りない語学に間違いがなければ、彼の奥様は、日本人で東京の中野に住んだことがあって、日本の精神が好きだと話してくれました。お酒も飲めない私が、そのお店の顧客対応を話し込み、お店が閉店するころまで長居をしてしまいました。

感嘆した「そうじ」とは?

帰ろうとしたころ、ギャルソンが「厨房を見ていくか?」と誘ってくれました。「もちろん! ぜひお願いします!」と中を見せてもらうと、それはそれは広い厨房で、何人もの人たちで片づけをしていました。

私がこのフレンチレストランのすごさに驚いたのは、ここからでした。