黒田日銀が事実上の金融正常化に踏み出したとされる16年9月の長短金利操作導入の際も、表向きには「緩和強化」を打ち出しながら、実際には国債買い増しを「減額」させる「ステルステーパーリング」として始めた。

 当時、ボードメンバーの1人だった木内登英・元政策委員(現野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)は、「今回の政策修正も、決定会合の声明文では緩和継続や強化という“前向き感”を演出しているが、実態は異次元緩和の副作用への対応を主眼にしながら、徐々に金利引き上げを目指そうとしている第2次正常化策だ」と指摘する。

 このように見ていくと、秋の総裁選やその後に予定されている消費増税を意識し、金融緩和路線の継続を求める官邸やリフレ派の政策委員に配慮する一方、円高に振れかねない為替市場にも気を配らざるを得ない中で、異次元緩和からの正常化に「緩和継続」や「強化」のメッセージをまぶしたというのが実情のようだ。

 それを象徴するのが、決定会合の声明文のタイトル『強力な金融緩和継続のための枠組み強化』(Strengthening the Framework for Continuous Powerful Monetary Easing)だ。

 タイトルだけを見れば、「緩和強化」のための政策修正と受け止められ、官邸やリフレ派委員とのあつれきが避けられる。また、海外向けの英訳文では、「Strengthening」という言葉を最初に出すことで金融緩和の強化をシンプルに印象づけ、円高に振れるのを防ぐことができる。そんな思惑からの苦心の代物といえる。

 アベノミクスの失敗による大規模な政策変更と受け止められるのは、政治的にはまずいし、円高になって景気が悪化したとなれば、それも結局は日銀のせいにされる。そもそも今の「2%物価目標」は、安倍首相が自民党総裁選出馬の公約として掲げ、政権の座に就いて強引に導入したもの。その首相が三選を目指す総裁選を控えたこの時期に、金融正常化に動き出しているように見えるのは、リスクが大き過ぎるということだろう。

見えない異次元緩和策の「出口」
残り少ない正常化の時間

 日銀法改正で「独立性」の基盤が強まったはずなのに、政治に弱く、国民よりも円高を嫌う経済界に配慮する「体質」は変わっていない。「主要中央銀行の中で、政策変更の判断基準の分かりにくさでは突出している」と、海外のアナリストから言われてきた日銀だが、今回もそれを改めて印象づけた形だ。

 だが、こうした“玉虫色の曖昧路線”で、異次元緩和策の「出口」にまでたどりつけるのかどうか。

「『2%物価目標』がある限り、金融緩和をやめようにもやめられない状況だ。さらにいえば、好況のもとでも物価や金利が上がらない経済に変わってきたのに、金融政策の理論武装ができていない。政策の方向感が曖昧なのは、物価が上がらなくても利上げが必要な理屈づけや物価目標の位置づけを整理できずにいるからで、出口シナリオを描きながら『曖昧さ』を残しているといった次元ではない」(日銀OBの1人)との厳しい見方もある。

 19年10月には消費増税が予定され、東京オリンピックが開催される2020年の後半には景気後退が予想されている。時間が限られているのを考えると、「日銀式出口戦略」の歩みはあまりに緩慢だ。