面子を重んじる(1)
会社経営者の窪田さんは、中国の生産工場と提携して製品を輸入している。そのため中国に月に2、3回出張するが、そのたびに中国人の食事に関する浪費癖にへきえきしている。毎回、たくさんの料理を注文し、とても食べ切れないからだ。そんなに注文しなくてもいいと伝えるが、いつも「ご心配なく」と言われてしまう。
中国のレストランで宴会後の食卓を見ると、日本人は残された料理の多さにびっくりする。だが、これは浪費癖のためではない。
実は、中国人の生活習慣にも倹約の精神が根付いており、中国人は浪費と倹約という矛盾した二面性を持っている。普段は市場で一円でも安く買おうと値切る人が、同窓会では1カ月分の給料をはたいてでも自分が全員の食事代を払おうとすることもある。
浪費と倹約を切り替えるスイッチは、面子だ。市場での買い物は家族や友達と行くためありのままでいいが、同窓会は数年に1度のことであり、全員に食事をおごることで成功者のイメージを与えることができると考えるからだ。
このような心理のことを中国人は、「面子がある」(有面子)と言う。一方、「面子がない」(没面子)のは自分の社会的存在や価値が否定されるため、中国人にとっては耐え難いことなのだ。
また面子は、物のように貸し借りも可能だ。人に何かをお願いするときに中国人はよく、「面子を一つ下さい」(給我个面子)と言う。「私の面子を考えて、それなりの配慮をしてください」という意味だ。むろん、その面子はいずれ返さなければならない。
つまり、この事例では、窪田さんに「あなたはわが社にとって大事なお客さまです」というメッセージを伝えるとともに、「わが社はこのような接待ができるくらいに成功している」というアピールをする思惑があるというわけだ。