もちろん、図のマニュアルは成文化されているわけではない。支店長の長年の経験から、定年退職者の気持ちを上手にコントロールし、退職金運用プランの契約に至る口説き文句の流れが練り上げられているのだ。

 「昔、養老孟司さんの『バカの壁』という言葉がはやりました。実は定年や退職金にも『バカの壁』があるのです」

 セゾングループで金融子会社の資産運用業務に従事して2006年にセゾン投信を設立し、07年より現職。気が付けば50歳を過ぎていたという中野社長は、同世代の人間に「定年がゴール」「退職金をもらうまで」と、老後の人生を思い描けない人があまりにも多いことにがくぜんとした。

 「彼らの頭には、60歳で退職金をもらえば人生が一段落すると思い込んでしまって思考停止する『退職金バカ』という壁があるのです」

 銀行支店長の独自マニュアルには、そんな「退職金バカ」の気持ちにうまく潜り込むすべがある。

「運用知識の不足」が
退職後に感じる後悔のトップに

 野村総合研究所は14年、定年退職者の資産運用ニーズや金融機関との取引状況を把握するためのアンケート調査を実施した。

 その結果を受けて、「資産運用アドバイスを求めて彷徨う定年退職者たち」と題するレポートを15年に発表している。

 それによれば、退職金で投資商品を購入した人は全体の43%、そのうち運用の検討に活用した情報源を「金融機関の窓口や営業担当者」と答えた人が31%で最も多かったという。

 その後、新たに取引を始めた金融機関で投資した理由を尋ねると、退職者向け金利優遇という分かりやすいメリットに加えて、的確なアドバイスを受けられたことに納得している結果が浮き彫りとなった。