涙がボロボロあふれて止まらない

 開業までおよそ2ヵ月というタイミングを迎え、実際のルートで試験運転がほぼ毎日、平均して2~3往復ほど行われていた。
(CM撮影は、ここしかない!)

 開業のちょうど20日前に当たる2月20日、試験運転の一本を使って、CM撮影を行うことを決定し、博多駅~鹿児島中央駅間の沿線を中心に出演者の募集告知を打つことにした。

 対象は、この全線開業を共に祝っていただける方々約1万人。
 内容は、2月20日に試験運転で走る新幹線に向かって思い思いの衣装、スタイル、横断幕その他諸々で、新幹線に手を振って声援を送ってください、というもの。

 イメージは、人気映画『スラムドッグ$ミリオネア』のラストシーンにあるようなインド映画風のダンス。

 当日は、新幹線車内にスタンバイしたムービーカメラ7台、スチールカメラ6台を中心に、空からも地上からも合計約50台のカメラがその模様を撮影することになっていた。

 Webで事前の参加登録を受け付けていたが、応募状況はまずまず。
 あとは当日を待つばかりとなった。

 2月20日当日、試験運転の新幹線が鹿児島中央駅を走り出すと、そこから先はもうずっと信じられない光景が続いていた。

 沿線の道や広場、川原にグラウンド、学校の校舎やマンションなど、いたるところであふれんばかりのひとびとが、思い思いの格好と小道具でちぎれんばかりに手を振ってくれている。

 先生たちと“結託”したのか、学生服や部活動のユニフォーム姿の学生たちも目立つ。
 チアリーダーチームもいれば、線路から見えるところでプロレスをしている人たち、新郎新婦の結婚衣装、プールに花や風船を浮かべてあったり、マンションに大きな垂れ幕なんて演出もあった。

 面白おかしいものばっかりだったから、新幹線の中でみんなで笑い転げていたが、なぜだかみんなが泣いていた。

 このCMのいいだしっぺだった私も、涙がボロボロあふれて止まらない。
 カメラマンチームもレンズを見つめて、粛々と仕事をしながら、全員ボロボロ泣いていた。
 次々と移りゆく景色のなかで、沿線のひとたちがいろんな姿で現れては通りすぎてゆく。

 結局、私たちは完全に見誤っていた。
 1万人も募集してみて、何千人くらいのひとたちがうまくカメラに収まってくれるだろうか、そんなことを思っていた。

 ふたを開けてみれば、事前登録者数をはるかに上回る、募集した1万人の倍の2万人が集まっていたという。

 新幹線の撮影があるからと、急遽(きゅうきょ)かけつけ、驚くようなコスプレや演出で「出演」をはたした猛者たちも大勢いたようだ。

 飾りもなく、台本もないCM。それが功を奏した。
 インド風ダンスが云々、といった事前のイメージのすべて上を行く、ものすごいCMができた。

 現在でもネット上の動画サイトで、「祝!九州」などで検索すると出てくるので、まだ観ていない方はぜひご覧いただきたい。

 大急ぎで編集、制作されたこのCMは、2011年3月9日にスタートし、そして11日の夕方まで放送された。

☆ps.
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