「もっと自由に生きたい」と思っている人は多いはずだ。しかし、仕事や家庭があると、なかなか思ったようには生きられないのが実情だ。そのため、私たちは「環境を変えられない以上、自由に生きるのは難しい」と考えてしまう。しかし、近年シリコンバレーを始め世界に広がっている「ストイシズム(ストア哲学)」によると、「自由とは、自分の力が及ぶものをつねに自分で正しくコントロールできることである」という。本記事では、『STOIC 人生の教科書ストイシズム』の内容をもとに、自分の意志を貫くにはどうしたらいいかについて紹介する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

不満をかかえる女性Photo: Adobe Stock

制約や義務から自由になる方法とは?

 会社員をしていると、自分の意志が通らないことが多々起こる。

 配属や仕事の割り振りもなかなか自分では選べないし、休みたいときに休めるとも限らない。苦手な人が上司や部下になることもあるだろう。

 会社や会社内のポジションから解き放たれてもっと自由になれたら……と思ったことがある人は多いのではないだろうか。

 こうした制約や義務は仕事だけではない。「母親」や「父親」といった立場による制約や、介護や子育てなどにより、「自由な時間がほとんどない」という人も多いだろう。

 多くの人が一度は、「もっと自由に使えるお金がほしい」「すべてから解き放たれて長期旅行に行きたい」などと考えたことがあるはずだ。

 古代のストア哲学者であるエピクテトスは、自由について次のように語っている。

自分の意志を貫いて生きる人は自由であり、強制されず、妨害されず、力で支配されることもなく、選択を妨げられることもない。
自ら欲して目的を成し遂げ、嫌悪するものには巻き込まれない。
――エピクテトス『語録』(第4巻第1章1)(P.180)

 これは一体どういうことだろうか。

「自由」とは、心の在り方

 ストア哲学とは、2000年以上前に古代ギリシャで生まれたもので「ストイシズム」と呼ばれている。

 これは、感情に左右されず、「自分自身がコントロールできること」に注力し、「できないこと」に心を乱されないことを説いたものだ。理性と自己制御を重視することで、より良い人生を送ることを目指す。

 著者で、ストイシズム研究者であるブリタニー・ポラット氏は、「エピクテトスにとって、自由は自由意志で選択することを意味する」と解説する。

ストイシズムは状況が変わることを願うのではなく、自分の心構えや決断を、責務に沿うよう適応させることを促す。
自由とは、自分の力が及ぶものをつねに自分で正しくコントロールできること、つまり、申し分のない人格を身につけ、高潔な選択ができるようになることである。(P.181)

 つまり、状況が変えられなくても、「自分がどうありたいか」を選ぶ自由はあるということだ。

 もちろん、「他人と過去は変えられない」という言葉があるように、自分の意志で変えられるもの、コントロールできるものは限られている。

 ただその限られたものをどうするのがベストかを、自分でしっかり意志を持って決断することはできるはずだ。

環境が変わらなくても、選ぶ自由はある

 自分の意志を貫くためのヒントとして、ポラット氏は次のような問いかけをしている。

いま現在、あなたに課せられている義務や制約を書き出そう。また、自由の意味を「自分の反応を自分で選ぶ力がある」という意味にとらえ直すことはできるだろうか? そのような自由は、あなたの目にはどう映るか?(P.181)

 筆者はこれを読んで、昔自分がしたある選択を思い出した。

 会社員の頃、非常に苦手な同僚Aと後輩、筆者の3人で2つの仕事を任せられた。その仕事のうちの一つは結構大変なものだったため、上司から「筆者とAでその大変な仕事を担当したらどうか?」と打診があった。

 しかし、同僚Aのことが苦手であるが故に、一緒に仕事をすると嫌な気持ちになったりストレスが溜まったりするのは目に見えていた。

 とはいえ、「もう一つの仕事を一人で担当する」と申し出ると、「楽をしようとしている」と思われる可能性もあった。

 そこで、筆者は「自分一人で重たい仕事をする」という道を上司に提示し、「後輩はまだこちらの仕事をしたことがないので、このジャンルが得意なAさんと共に担当するといい経験になると思う。もう一つは私が一人でできるので」と申し出たのだ。

 筆者が申し出た仕事の方が明らかに大変だったこともあり、「あなたがそれでいいなら」と、誰もそこに意を唱えることはなかった。

 かくして、筆者は「苦手な人とは仕事をせず、自分の責務を果たす」という道を獲得することに成功したのである。

 まさに、「自分の反応を自分で選ぶ」を体現した瞬間だった。

自分のメンタルは自分でコントロールすればいい

 仕事にしろ家庭にしろ、生きていると何かしらの責務は生じる。

 しかし、その中で「自ら欲して目的を成し遂げ、嫌悪するものには巻き込まれない」道を選ぶ方法はきっとあるはずだ。

 それは、「やりたくないからそれはやらない」とわがままを通したり、誰かに責任を押し付けたりすることではない。

 自分で自分の感情をコントロールしながら、知恵を絞り、他人への思いやりと勇気を持って困難に立ち向かって、獲得していくということだ。

 これは大変なことかもしれない。しかし、イライラしながら「やりたくないなあ」と思って過ごすよりも、ずっと前向きで気持ちがいい。

「ストイシズム」の考えを力に変えて、ぜひ自分の信じる道を選んでほしい。

 自由とは、環境ではなく、心の持ち方によって得られるものだから。