100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、重版が決まった。
本記事では、終わりの見えないクレーム対応を収束させるための「時間軸」の取り入れ方を、具体例とともに特別掲載する。(構成:今野良介)
なぜ「スピード解決」を焦ってはいけないのか?
お客様から寄せられるクレームの多くは、「謝って済む問題」として収束します。
しかし、誠意をもってお詫びしても、なかなか許してもらえないお客様がいるのも事実です。また、こちらに非があることを認めて正式な謝罪と補償を申し出ても、納得しないクレーマーもいます。
担当者にとっては、ここからが正念場です。
まず肝に銘じておかなければならないのは、解決を急がないことです。スピード解決を目指して相手を言いくるめようとしたり、よく考える前に相手の言いなりになってしまったりすると、かえって事態を悪化させることが多いからです。
次の例をご覧ください。
------和食料理店の事例-------
和食料理店で、男性客から店長が呼ばれた。
「これ、本当に備長炭で焼いたの?」
男性は小皿に盛られた焼き鳥を指さし、店長の耳元でささやくように尋ねた。店長は「ええ、備長炭を使用しています」と答えた。男性は首を傾げて言った。
「備長炭100%だと断言できるの?」
思いがけない指摘をされた店長は、口ごもりながら「100%というわけではありませんが、備長炭は使っています」と釈明した。
それを聞いた男性は、「それなら、備長炭焼きなんて宣伝しないでほしいな」と言い、鋭い視線を向けてこう続けた。
「最近多いんだよな、こういうの。これも食品偽装の一種じゃない? ネットで流すから、反省してよ」
店長は血の気が失せた。
「申し訳ありません。これから十分気をつけます」と平謝りする。一方、男性はにやけた表情で「じゃあ、これどうするの?」と、再び焼き鳥を指さした。
店長が「よろしければ召し上がってください。お代は結構です」と申し出ると、「あっそう、ありがとう」と言いつつ、「でも、それだけ?」と二の矢を放った。
店長はオーナーの顔を思い浮べながら、オロオロするばかりだった。
(了)
SNSをはじめとするネット空間に拡散したクレーム情報は、たとえそれが一方的な誹謗中傷であっても、ターゲットになった企業や店舗、団体に甚大なダメージを与えます。同時に、担当者個人の立場も危うくするでしょう。クレーム担当者の多くは、こうしたプレッシャーを受ける中で、言い知れぬ不安を抱えています。
しかし、だからといって、スピード解決を焦ると、取り返しのつかない失敗を招く恐れがあります。過大な要求を一度でも受け入れてしまうと、それが既成事実となって、要求がどんどんエスカレートしていく可能性が高いからです。
もう1つ、初期対応での「焦り」が、2次クレームを誘発したケースを紹介しましょう。