日本語でも悩むメールがスラスラ書ける!総合商社で磨き抜かれた「生きた英語」とは?
「値下げ要求をスマートに断りたい」「代金の未払いをやんわりと伝えたい」「商品をさりげなく売り込みたい」。あなたならどう書きますか?
三井物産の商社マンとして、約40年間、第一線で活躍し、退職後は慶應義塾大学、早稲田大学のビジネススクールで教鞭をとり、新刊『人を動かす英文ビジネスEメールの書き方ー信頼と尊敬を勝ちとる「プロの気くばり」』を上梓した定森氏に、ビジネス英語の実務を語ってもらう。
口約束でモメないために
ビジネスの意思決定に不可欠な情報は、両方の当事者がやり取りを重ねながら、精度を高めることが必須です。The devil is in the details.(悪魔は細部に宿る。)と言われますが、重要な細部を聞き漏らし、アバウトで中途半端な理解のまま合意すると大変な結果を招きます。
ビジネスのプロの間では、ネイティヴ同士でさえ、口頭表現だけに頼らず、交渉などの過程で何度もお互いの理解に齟齬がないことを書面で確認し合っています。
その上で、最終的な意思確認の証として、合意した事柄を細大漏らさず書面の形で記述したものが契約書(contractとも agreementとも呼ばれる文書)です。その意味では、ビジネスコミュニケーションの究極の目的は、正確で信頼性の高い契約書を作成することとも言えます。
契約書に関連して、「ビジネス英語」を学ぶ人たちの間で意外に話題にのぼらないことで大変重要なことがあります。それは、重要な契約書には必ずといってよいほど盛り込まれる「完全合意(Entire Agreement)」と呼ばれる条項のことです。下記は、その典型的な文例です。
This Agreement constitutes the entire agreement between the parties and supersedes any prior or contemporaneous written or oral agreements, negotiations, promises, arrangements, representations and understandings between the parties concerning the subject matter hereof.
本契約は、両当事者間のすべての合意を網羅しており、本契約の主題に関する両当事者間の本契約の締結前または締結時における書面または口頭による合意、交渉、約束、取決め、表明および了解に優先する。
たとえば、契約書に署名する直前に、「半年たっても売れ残った分は返品を受け付けますから安心してください。」と納入業者が口頭で約束したとしても、その内容が契約書に明確に盛り込まれていなければ、後になって「あの時返品を受け付けると約束したじゃないか」と訴えてもその要求が通ることはないということです。
契約を締結する場合は、善意か悪意かは問わず、その過程で様々な関係者の間でいろいろな話し合いが行われます。「あの時は確かにこう言った。」とか「あの文書にはこう書いてある。」といって後日もめることがないように、契約文書の最終版では、「この契約書で合意したことだけが有効である」ことを確認する条文を含めるのが常識です。
これは、英米法体系のもとでParol Evidence Rule(口頭証拠排除原則)と呼ばれる概念です。日本でもITビジネスなどを含め、グローバルにビジネスを展開する企業や個人にとって見過ごしてはならないポイントです。現実的には、口頭証拠だけでなく、written or oral(書面または口頭)と両方を規定することが多いため、「細部に潜む悪魔(the devil in the details)」には注意が必要です。