現在は一定条件の新築にのみ許された二重価格は中古に広まるのか(写真は本文と直接関係ありません)

 中古住宅の広告ルールが変更され、いわゆる「二重価格」の表示が解禁される見通しとなった。

 二重価格とは旧価格と新価格を併記して、値引き販売中であることと値引き幅を明確にした表示方法。現在、不動産業界では、新築後2年以内の未入居物件にのみ認められているが、今夏をめどに中古住宅にも拡大される見込みだ。

 もともとはバブル全盛の1988年、値付けに失敗して大量に売れ残った新築マンションを処理するために解禁された制度だ。リーマンショック後にも、「500万円値下げ」などと表示した売れ残り新築マンションが、「アウトレットマンション」として各地で販売されたのは記憶に新しい。いずれも「お得感」が伝わり販売が好調だった。

 足元の中古住宅市場は低迷中。新築での成功事例から仲介業者は二重価格解禁を待ち望んでいるかと思えば、それほどでもない。

 なぜなら、「中古住宅の表示価格はすでに“商談の参考価格”という認識が定着している」(大手仲介会社)からだ。表示価格は売主の「売りたい価格」であって、その価格で取引がまとまることはレアケースとなっている。

 売却専門仲介の「売主の味方」の風戸裕樹社長は、「最近では、買い手も“買いたい価格”である“指値”を提示する入札のような方式が一般的になった」と言う。指値は「市況次第だが、最近は表示価格の10%引き以上が多い」(風戸社長)と打ち明ける。商談で価格が擦り合わさっていくのだ。

 その結果、首都圏の中古マンションの直近3年間の成約価格は、表示価格の6.6~10.2%引きで推移している(東京カンテイ調べ)。

 つまり、「今さら」という思いが強いのだ。逆に、東京カンテイの中山登志朗上席主任研究員は「もっと価格は下がる、と捉えられる可能性が高い」と買い控えや、さらなる値引き要請を誘発するリスクを指摘する。「値引きしないと売れないような物件は購入対象外とする消費者は一定数いる」(中山研究員)という。

 一方で「値下げ表示は消費喚起になる。『これだけ値引きしたのだから』と低い指値を断る理由にもなり、交渉がまとまりやすい」(風戸社長)と前向きに捉える声も少なくない。

 二重価格の効果も悪影響も不透明なため、大半の仲介会社は二重価格が定着するのか否か様子見というのが今のスタンスだ。

 本来、竣工前に販売するマンションと異なり、中古住宅は現存する物件なので、査定や価格の根拠はシンプルなはずだ。中古住宅市場の活性化のためには、表示方法の変更より、透明化した査定システム、流通システムの整備が必要である。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)

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